Magazin&Champion-D-

□足りないんだ
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あと少し、と思ってた時間はあっという間で、
シーズン最後の試合が終わってしまった。



自分では結局、何を言うでもなく
鳴さんに買い物頼まれたりして ついでに駅へ送る機会がまたあるかもしれないし…なんて偶然を期待するばっかりで。

鳴さんに『暑苦しい!!』なんて言われてる時の俺はどこいってるんだろう、なんて考えていたらみょうじさんへの反応がぎこちなくなる。




「そだ!この前テレビでやってたんだけど、多田野くん知ってる?『一番長続きする愛』は片思いらしいよ〜!」

「え!?そう…なんだ。知らなかった、」



ぎこちなくなったのは内容のせいでもあったけど。

確かに この気持ちは、言わない限り終わりがなさそうだな…なんて感じながら



「でも私は長続きしないだろうなぁー」

「…なんで?」

「好きだから!」



この話の続きが、怖いと思った。

みょうじさんを好きにならない理由ばかり探して
叶わなくていいなんて思いながら結局、





好きになりすぎてて




「君は私の特別なんだよって言いたいし、」



そんなこと言われる相手が羨ましすぎるし
応援なんて、到底できそうもない。



「誰よりも大事にされたいし、」



誰よりも、大事にするのに、

なんて言えもしない言葉を思い浮かべては消して



「一番に私のこと見て欲しいもん」



その相手が俺だったら、

なんて 都合のいいことばかり考えてるだけ。



「だからね、」



その相手は、
誰なんだろうな、って



羨ましく、思うだけ。







「私のこと、誰より一番好きになって。多田野くん」








「……え…?」

「多田野くんが、私の特別」

「…え、」

「だから、私のこと好きになって?」

「…」

「……返事は?」

「…はい」



夢かと、思った。

みょうじさんの口から、俺の名前が出てくるはずないって
嘘かなにかかもしれないって 思ったのに

返事を急かすみょうじさんの目が少し不安げに揺れてて、気づいた。
あぁ、俺に言ってるんだって。



「はいって言ったからね!」

「うん」

「後でやっぱりなしって言うの無しだよ?」

「うん」

「私と付き合うの、きっと鳴先輩の相手するくらい大変だよ!」

「うん、そんな気もするけど…でも、」



みょうじさんが俺を選んでくれるなら、



「もう ずっと前から 誰よりも一番、みょうじさんが好きだから、絶対大丈夫」





俺はみょうじさんがいいから。





「…そうなの!?」

「…うん、」

「私まゆゆみたいじゃないけど!?」

「だから、タイプとは違うんだって…」

「…私、きっと鳴先輩に負けないくらいわがままだよ!?」

「ワガママ聞くのは、鳴さんで慣れてるから」



何度も確認するみたいに質問を繰り返すみょうじさんにそう言えば、
瞬きをして小さく笑った。



「……じゃあ…明日からも送って?駅まで」

「うん」

「あと、手も繋いで。はい!」

「えっ今!?」

「今!」

「……はい」

「それと、」



どれも可愛いわがままばかりで、それでも
握った手に入れる力加減を悩みながら、まだあるんだ…と思えば逆に強く手を握られる。





「…今のままじゃ足りないから、もっと好きになって」





かなり、好きなんだけど。と
それを聞いて思ったけど、そうだよな…今まで言い訳ばかりして伝えてこなかったんだから、伝わってるわけがない。

みょうじさんが足りないって言うなら









ないんだ



「…うん。この命に変えても」そう答えて、少しでもこの気持ちが伝わるように みょうじさんの手を少し強く握り返した。










→extra 13.決意も込めて


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