Magazin&Champion-D-

□もしかしたら
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「………はーーー…」



俺って、もしかしてタイミング悪いのかな…。なんて

商品棚の前でメールの返事を待ちながら 長いため息を吐いた。


自分のできることだけを、なんて意気込んだくせに
やってることは買い出しだし…鳴さんのだけだと思ってたら、今日に限って部屋の先輩だったりレギュラー陣にどんどん頼まれて…

そんなことしてる間に



『あ、多田野くんだ。今日もおつかーい?』

『!みょうじさん…!?…あー、うん、そう…』

『私も今日はコンビニ寄りたいから一緒いこーよ!』

『えっ…!』

『?だめ系?』

『いや、…どうぞ』

『あはは何それ〜』



なんていうか よりにもよって意気込んだ直後じゃなくても良かったんじゃないか、
くらいは思わずにいられなくて、またため息をついた。

まぁでも、来る途中で
『鳴さんも気にしてたし、いつも通りで』とは言えたし、これで試合には集中できるよな…。



「あ、」



なんて無理やりポジティブに捉えてる間に返ってきた 白河先輩のメールに急いで目を通す。
白河先輩は間違って買って帰ると怖そうだから…としっかり確認してから書かれている通りの商品をカゴに入れて

これで全部だよな…とレジに向かいながらカゴの中身を確認していれば、





「私、彼氏居るからそういうの無理!」





来客を伝える電子音と、同時に聞こえてきたその声で思考が一瞬止まる。

え、みょうじさんだよな…!?電話かかってきたから外出てくるって言って…時間かかってるなとは思ってたけど…!
何かあったのかと急いで通路に出れば



「樹!」

「わっ!?」



何が起こっているのか把握する前に
みょうじさんには呼ばれたことのない俺の名前がみょうじさんの声でレジ前に響いて

俺の方へ走り寄ってきた彼女は、俺の腕にしがみついた。



「え、っと…大丈夫…?」

「ナンパ、しつこいから」

「…あ、ぁ…」



なるほど…、なんて思ってる場合じゃないんだと思う。多分。
きっと今、彼氏ってことになってるの俺なんだろうし

でも初めて呼ばれた名前とか
腕にしがみつくみょうじさんの胸があたってるとか、腕から伝わってくる温度とか、近すぎる距離とか、
全部が気になってまともに言葉も出せないくらい動揺してる。


そんな俺を気にもとめず、
再び店内に響いた電子音に、みょうじさんは体勢そのままに 首だけでそっと入り口の方を確認して ため息をついた。



「はーーー…テンション下がるー」

「……」



強張っていた体から力が抜けたのか、
そのままこつんと俺の肩に頭を預けるみょうじさんに、俺は微動だにできなくて



考えないように、気にしないように
そう思えば思うほど、

だめだ、なんか



「明日試合なのにー…あ、こういう時はアレ!甘いもの!アイス食べちゃお!買ってくる!!」

「…うん」





意識、しすぎてる。












「さっきはごめんね〜。半分、食べながら帰って!」

「え!?いや…いいよ、」

「だーめ!」

「別に何もしてないし…」

「させたよ〜、彼氏のフリ」

「それは、…別にいいから、」

「だめ!拒否権なーし!」

「えぇ…」



店先で差し出された 分けること前提で買われただろうアイスの半分とみょうじさんの顔を交互に見て
なんとなく、受け取るまでここから動かないんだろうな…なんて思いながらも
別に、迷惑だとか思ったわけじゃないから 手を出せないでいれば



「寮戻ったら明日のリードとか考えるんでしょ?糖分は入れとかなきゃ!はい!」

「…うん。…じゃあ…、ありがとう」



みょうじさんはそう言って、上手く受け取らせてくれる。

そういうところ、少し自分的にはずるいと思う。
あと、満足そうに笑うところも。

コンビニから溢れてる蛍光灯の光が相まって、俺には目を逸らすことしかできないから。



「じゃあまた明日ね!」

「えっ、」

「ん?」

「あんなの見て一人で帰らせるのはなんか…暗いし、送るから、」

「いつも帰ってるし全然大丈夫なのに…多田野くんホント真面目だよね〜」

「真面目っていうか…」



みょうじさんと一緒に居るのがもし自分じゃない誰かだったとしてもそうすると思うし…多分。
なんてことを考えて 一人、複雑な気分に少し俯いた。



「…私ね、電車通学なんだ〜。っていっても1駅なんだけど」

「そうなんだ」


「うん。だから…駅まで、送ってって」



家まででも送るつもりだったし、断るつもりも毛頭ないんだけど
改めてそう言われると、なんていうか やっぱり断れなくて



「…じゃあ、駅まで」



なんて頷いて答えれば、みょうじさんはまた満足そうに笑って。
俺は目を逸らして、二人で駅まで向かった。


駅までは、相変わらずみょうじさんの話に俺がたまに相づちを打つような感じだったけど、それでも
「明日頑張ろうね〜!」と元気に改札を抜けていったみょうじさんを見送れば、

集中できてない焦りで落ち着かなかった感じは、全然なくなってて



鳴さんには『遅い!!ってかこれ冷えてないじゃん!!どこで油売ってたわけ!?』って帰ってから怒られたけど



でも、










かしたら



タイミングは、良かったのかもしれないな…なんて行く前とは逆のとこを思った。










→07.それでも


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