Magazin&Champion-D-

□それでも
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分かっていた、はずだった。





自分の技術が足りていないことも、
鳴さんに信頼してもらえていないことも、



そのままでは、いけないということも。



分かっていて、出来ることをやってきたつもりだったのに





ただ、全てが 足りなかったんだと





今、気付いた。



鵜久森と青道の試合を見て思い知る。

昨日負けたのは、”無力”だったせいなんかじゃない。
俺が、何もしなかっただけだ。



『遠慮することないよ』



みょうじさんが言ってくれたその言葉も、理解しているつもりで
”仕方ない”とか”前からこうだったから”なんて気持ちがどこかにあって

そんなのでいくら今の関係を変えようとしたって、変わるはずないのに
結局 俺は、自分のことだけしか見えていなくて





何も、できてなかったんだ。










「あ、二人ともおかえりなさーい!試合どでした〜?」

「ただいま。7-8で青道だったよ」

「へ〜接戦ですね〜」

「監督は?」

「お昼終わったとこなんで、まだ中だと思いますよ〜?」

「そっか、ありがとう。じゃあ俺はそっち行ってくるから、樹は先に昼食べてていいからな」

「あ、はい!」



そう言って福井先輩が監督の元へ向かって、俺がみょうじさんの方を見れば
不思議そうにしつつも話を振ってくれる。



「?試合どだった?収穫アリ?捕手の人って鳴先輩が気に入ってる人だよね?」

「うん、…色々びっくりした…かな。それで思ったことがあって…」

「なーにー?」


「…ごめん、みょうじさん」


「え…、ん!?私?私、多田野くんに謝られるようなことされた覚えないよ!?」



うん!絶っ対ない!!って驚くみょうじさんからすれば、きっと俺はまた必要ないことを言っているんだとは思うし、気にされていないのも分かってるんだけど

これから改めて頑張る前に、どうしても…自分の中で気になるから、一言謝っておきたかった。



「鳴さんとの事…アドバイスしてもらってたのに 俺、全然活かせてなくて…昨日も」

「なんだ!やっぱ謝るようなことされてないじゃん!もー びっくりさせないでよー! まだまだこれからだから!!すぐ上手くいかなくて当然なんだからね?なんたって相手はあの鳴先輩だよ〜?多田野くん超苦労するんだから〜」

「…うん、それでも」

「頑張る、でしょ?…次の甲子園行きも逃すようなら、その時は改めて聞くから!でも、謝られるのなんて全然嬉しくないし〜そんなのより、」

「…?」







「甲子園、連れてってよね」





あぁ…やっぱり、







好きだな。







って、心の中にそれだけが浮かぶ。

好きになってしまうのが怖くて
鳴さんの言葉を否定して、自分の気持ちに気付かないフリをして、近づきすぎないようにしてきたけど


多分、もうずっと前から手後れだったんだ。



満足そうに笑うところも
さりげなく助けてくれるところも
色んな事が見えてるのに、子供っぽく振る舞うところも

全部、





好きなんだ、



俺は、みょうじさんのことが。






「…うん。絶対、連れていくよ。てっぺんまで!!」

「わおっ!言うね〜」

「うん。鳴さんの目標がてっぺんだから。 俺も絶対そこまで行かないと!」

「…だね!」




今日で、諦める。







諦めることを。







俺の言葉に満足そうに笑ってくれるみょうじさんを
好きに、ならないはずがなかった。



たとえこの想いが叶わなくても良いから








でも



俺は、彼女を好きでいよう。










→08.やっと少しだけ


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