Gerade-D-

□いますぐ全力で
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「決めたのだよ私は!巻ちゃんを追いかけイギリスへ留学するとな!!待っててまきちゃーーーーん!!!」

「わ〜!裕くんも喜ぶね!」

「え?ソレ喜びます??海外まで追っかけとか正直うざないすか??」

「うざくはないな!!」



何があったんかは知らんけど、翌週えらい元気んなって部室に現れた前髪先輩は
高らかにストーカー宣言したと思うたら さっぱり部活に来んなった。
手嶋さんが言うには春にはもう向こう行くらしいから…前髪先輩アレやしな、勉強大変なんやろ、きっと。

それはまぁ、ええとして


『ここちゃんも受験だろう!そろそろ勉強せねばならんよ?これから私達は居なくなるのだからな!ずっと部活に入り浸っているわけにもいくまい!寂しいだろうがそれにも慣れておかんとな!!』

とか言うて心さんまで引っ張ってってもうた。

そりゃ大学行く言うてたし、心さんも…まぁ、あんな感じやから 勉強はせなアカンのやろうけど……
小野田くんらが出た峰ヶ山のレースも、応援くらい来るやろ思てたらふたりとも来んかったし

マジでもう部活来うへんのかと思ったら
峰ヶ山レースの後から心さんだけは顔出すようなって、小野田くんもやっといつもの調子出てきて、ちょっと前の空気に戻った。





それも落ち着いてきた頃や、今日も小野田くんと昼食お〜思とったのになんや美化委員の集まりある言われて…
一人中庭で寂しく「誰か来ーい!」て叫んどったら、何でか全く分からへんけど今ワイの隣にはオッサンが座っとる。



「で、なんでオッサンがここにおるんすか!」

「おまえが恥ずかしく叫んでるのを見かねてな。先輩がやさしく食いに来てやったんだ!昼メシを!」

「オッサンの優しさとかいらんす!!つうかいつも心さんらと食うとるんでしょ!一緒やないんすか!」



どうせやったらオッサンより心さんが良かったっすわ!
って嫌味っぽくつけ足して言うたれば、突然静かになるオッサンになんやこっちまでつられる。



「今日は東堂に任せた」

「…オッサン昼に飯食う以外の用事あるんすか?まさか本気でワイと仲良う昼しに来たわけちゃうでしょ」

「大学のことで忙しいんだよ、オレも」

「大学!?え、ほな前髪先輩だけやなくオッサンも大学受けるんすか?」

「まぁな」

「オッサンの実家パン屋でしょ?前に心さんが大学行くん、金城さんだけやー言うてたんで…ワイてっきり専門学校でもいって調理師免許とんのかと。ほんで板前の修行すんのかと思うてました」

「何で板前なんだよ!!」

「でもオッサンがマジメに勉強しとんの想像できんすねー」

「オレは生来 けっこう真面目なんだよ。評判だぜ?成績も悪くない」

「え!?マジすか、ワイてっきりオッサン バ…あ、いや」

「ゴラァ!てめぇ今なに言おうとしたァ!!」

「サーセン!!」



そんなやりとりしながら並んでメシ食っとると
なんやインハイ思い出したりして、思い出話のひとつも出てくる。

そん中で



「総北のスプリンターとして、おめーにはこの魂受け継いでほしいと思ってんだ」



なんて、オッサンが珍しく真面目な顔して言うもんやから
まぁ、もうこんな機会もないやろし 昔話のひとつくらい たまには黙って聞いたるか…と付き合うた。
ちょいちょい心さんも話に出てくんのが自慢か!て感じやったけどな。

大学行ってもこうなんか思うと…って、当たり前のようにふたりは同じ大学行くんやと思てもたけど
よう考えたら心さんグラサン主将…あ、もう主将ちゃうわ。金城さんと同じとこ行くて言うとったよな…
オッサンが急に進路変えたとかで心さんがまだ知らんだけか?



「まぁでもアレっすねー、オッサン大学行くんやったら心さん同じとこ行くて言うんちゃいます?」

「だろうな。だからまだ言ってねぇ」

「は。え……ええんすか、別のとこで」

「…ちょっとアイツが部活来ねぇだけで気にしまくってたお前には好都合だろうがよ」

「ハァ!?べっつに気にしてへんすわ!!ワイはただ べったりやった心さんがおらんなったら、意外とオッサンのが寂しいんちゃうかと思ただけですー!!」

「そりゃお前だろうが!オレはいつまでもあいつの面倒見るつもりはねぇんだよ」

「せやけど……」



気にしてへん言うたけど、気にならんわけない。

オッサンがそれでええと思とっても、心さんは?
そりゃ別の大学行ってくれるんやったらワイとしても文句ないで?

でも知っとったらあの人、絶対今からでも志望校変えるやろ!

そんな人を放置できるか?ワイならできん!
後で聞かされんのとか絶対嫌やろうし!



「どうせすぐバレるでしょ!?先言うといた方がええんちゃいます?後でそれ知ったら怒るかもしれんですよ!ほら、オッサンも心さん怒ったら面倒やーて言うてたやないすか!」

「いいんだよ」

「いやいやいや!よーないでしょ!金城さんやときっと…」



手に余るやろうし、なんて言おうとしとるんは建前や。
正直イヤやで。大学まで変わらずオッサンにベッタリとか。考えたないけど。

それよりもっとイヤなんは、心さんがたのしないことや。
どこでもやってけそうに見えて 案外人間関係狭い人やからオッサンがおってそれで楽しい過ごせるんやったら

それでもええ、て 思たのに



「卒業までには出てくんだろ」

「は!?何がすか!」

「その辺もまとめて引き継ぐ『やたらと騒がしい奴』がだよ。そいつに全部任せりゃいい」

「!一応聞いときますけど…それ、誰のこと言うてんすか」

「さぁ、誰だろうな」



なんすかそれ、
何ニヤニヤ笑ろてんスか。

そらまぁ、さすがのワイもバレてへんとは思てへんで?思てへんけど!
まさかオッサンが んな話するとか想像するか!?せんやろ普通!



つうか それ絶対、ワイのことでしょ!!



「…誰のことか全っ然分からへんすけど、まーオッサンがそこまで言うんやったら全〜部ひとまとめにしてワイが引き継いだりますよ!」



ま、でも決めとるんで



「ただし 来月のクリテでオッサンを負かした後の話すけど!!」

「ほう、オレに勝つって?」

「当然でしょ!ちゃんとコンディション調えとってくださいよー。引退目前で練習不足やから負けた〜とか言い訳されたないんで!」

「するかよ。ぶっちぎりで負かしてやるから安心しろ」

「それはこっちのセリフっすわ!」



そんな言い合いを止めるように響く予鈴で立ち上がって
ほな部活で!なんて挨拶もほどほどに
全然授業受ける気にもならんけど、気持ちが乗って教室に向かう足は速うなる。

正直、こんまま部室直行したいくらいや!
絶対いま 何の話されても どうやってオッサン負かすか、それしか考えられへん自信ある!


絶対勝つで!次のレース!!
勝って、『全部おまえに任せる』て言わしたりますわオッサン!

せやから 早よ来んかい放課後!!








すぐ全力で



ペダル回したくてしゃーないわ!!









→21.どうしても


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