Gerade-D-

□なにより
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巻島さんが海外の大学行ってもうて
前髪先輩も1週間くらい部活休んどって
オッサンと金城さんは来とるけど、ワイらメインやから口出してくることもあらへんくて
なんや、えらい静かやなー…て感じる。


でもこうなったら、心さんてやっぱ大人しかったんやなーて思うわ。

挨拶はまぁ…いつも通り飛びついてきよるけどそのほかは、意外と自分から話しかけてくるんて少ない。
じーっと見てくる時、どないしたんすか?て聞いたれば話始めよるけど、まぁ、全然内容のある話から始まったことないしな。
お腹すいたね〜やとか新しくしたパーツがかっこえーやとか、ただ見とるだけやとか…

おっさんなんかは慣れとるから、それされても何言うでもなく放置しとることも多いし
前髪先輩おらんからか、ワイんとこよー来るけど…

心さんが自分から声かけんのはやっぱおっさんか、前髪先輩やったから
先週珍しく自分から『来週からあいこちゃん部活来るって言ってたんだよ!』て言うてた時はやっぱ嬉しいんやろなーて、ちょっと悔しく思たくらいや。ホンマちょーーーっとやけど!

それが、







「……なんや部室暗ないすか」



外は快晴、部室も煌々と電気がついとるっちゅーのに
どっかどんよりとしとって、その重たい空気にたまらずそう言うたら
ひとりでタオル変な畳み方して遊んどった心さんが確かに、って顔をする。



「最近あれ、歌ってないもんね」

「アレ?」

「ひーめひめ〜ってやつ!」

「あぁ、小野田くんのやつか。確かに練習中も聞かへんすね。まだ新しいチャリも慣れてへんのか よう転けとるし…」

「そっかぁ…」

「って、ちゃうちゃう!ワイが言うとる主な原因はそっちっすわ!」

「?あぁ!」

「あぁ、ちゃいますよ!?どんなボケすか!」



確かに小野田くんもベンチでなんや緊張した顔しよるけど!
でもそれ以上に、端の方で何回ついたんか分からんため息をまだこれでもかってくらい吐き出しとる人を指差したら
原因のその人はまた ため息をついた。



「はぁ…まきちゃん…」

「前髪先輩が大人しいとかなんや気持ち悪いんすけど!?」

「裕くん居ないもんね」

「いつもなら『キモくはないな!!』とか言うてくるとこを、完全無視やもんなあ…オーイ!前髪センパーイ!聞いてんすかー!?」

「…ん、ああ、すまんね…」

「…なんや調子狂うわー…」

「あいこちゃん」



心さんは、ぱたぱたと前髪先輩に近寄っていった思たら、何を言うわけでもなく前髪先輩を抱きしめた。

部活中にそうやってただ隣に座っとったり、特に何するでもなく二人でぼーっと一緒に練習見とったりすんのが、前髪先輩戻ってきてから増えた。
前髪先輩が寂しがっとんのはそりゃ分かるけど…ワイ、なんか心さんが犬とか猫とかそんなんに見えてきたわ…。







「今日も二人でぼーっとしとりましたけど、アレ何か意味あるんスか?」

「?さぁ…?」

「さぁ、て」

「一緒にいたいから、一緒にいるだけだよ?」



…心さんてホンマ、何も考えてなさそうやのになー…
まぁ考えとるっていうよりは、感じとっとるに近いんやろうけど…



「…ええっスね、」

「?」

「前髪先輩はすぐ近くに、心さんがおって」

「ん?」

「ワイなら、百人力っスわ!」

「…うん?」



ワイの言葉に首かしげながら返事する心さんに
あー、絶対意味分かっとらんな この人。と思いながら笑う。



「めっちゃ元気出るっちゅー意味です!前髪先輩もすぐ元気なりますよ。元気なりすぎたらまたうっさいですけど!」

「その方がきっと楽しいよ!」

「…それ、ワイにいじられろ言うてんスか?」

「え、そんなこと言った?」

「巻島さんおらんかったら、あの人のテンション相手できんのワイくらいしかおらん思いますけど?」

「…!章ちゃん、優しい!」

「いや!それなんかちゃうで!」

「?」

「…まぁ、それでもええすけど」

「うん!」



首傾げる心さんに諦め気味に返せば、笑てくれる。
それで心さんが楽しいんやったら それでもええか、てついつい思てまうのは何なんやろホンマ。


残されとる時間は多ないから
そんなのんきにしとる場合でもないんやけどな。


何も言わんでも側におってもらえる前髪先輩を、羨ましいとは思う。
はよオッサンに勝って、気持ち伝えななとも思うとる。

でも








より



この人には笑とって欲しいって、そう思てまうんや。











→20.いますぐ全力で


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