Gerade-D-

□よっぽど
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「…居るじゃねぇか」

「迅だー!おはよ!」



廊下を歩いていれば、今日は三笠は一緒じゃないのかと教師に呼び止められ
部室に向かえば、呼び止められるはずの本人は 呑気にパンをくわえてやがる。



「おい、お前んとこの担任が探してたぞ。いつになったら進路相談させてくれるんだってな」

「あぁ…、ここちゃんの面談はいつも短時間で飛び出してくるからな…」

「!…あのね!昨日あいこちゃん家泊まったんだけどね、今日朝ごはん、あいこちゃんがお魚焼いてくれてね、すっごく美味しかったんだよ!!」

「ワッハッハ!ここちゃんに頼まれては焼かねばなるまい!」

「話逸らしてんじゃねぇよ。さっさと行ってこい」

「え〜…」



えーじゃねぇだろ。と言ったところで、
心の顔には『行かない』と書いてある。
コイツの場合、別に納得させなくても気分だけでもそんなような気にさせりゃ済むが…
なんて言ったもんか、って考えてりゃ横からカッカッカーといつもの笑い声が飛んできた。



「心さん、誤魔化すのも下っ手くそやな〜!それにしても、進路まだ決まってないんすか?そういうのさっさと決めてまいそうやのに」

「決まってるよ!真くんと同じこと行くんだ〜」

「は!?」

「って言ったらちゃんと決めなさいって怒られた…決まってるのに…」

「え、いや、あ〜、そーなんすか!」



心の言葉に目が泳いでる鳴子の思考も手に取るように分かるが…
それにしても…



「…お前な、理由ぐらいもっと適当に考えて言えねぇのか」

「だって、大学行くって言ってたの真くんだけだもん」

「そういうこと言ってんじゃねぇよ。だいたいなんか他にも…学部とか学科とか色々あんだろ」

「真くんと同じとこ行って、自転車部入ってマネージャーするんだよー!」

「………」



受かる受からねえ以前に、本人がその気になりすぎてて話にならねぇ。と頭を抱えてりゃあ
今までのやりとりを見かねたのか、珍しく金城が口を挟む。



「…よく考えてお前が決めたことなら口を出すつもりはないが…先生にもう少し時間を貰って、ちゃんと考えた方がいい。俺が居るから、という理由では先生方が納得しないのは当然だ。本当に同じ大学に行くとしても学部や動機も結局必要になるからな」

「そうだぞここちゃん、裏表がないのはここちゃんの美点ではあるが!人間 時には『建前』というものも必要だからな」

「…じゃあ、もちょっと待ってもらう。職員室行ってくる!」

「待て待てここちゃん、私も行こう!」



「…悪ぃな、金城。手間かけさせて」

「いや。……寂しいんだろう。その気持ちは分からんでもないさ」



そう言って心が出ていった扉の方を見る金城に
この後、改めて部を引き継ぐ挨拶やるのを思い出して
俺も扉の方を見ながら「そうだな」と相槌を打った。



「引継ぎ、あの二人が戻ってくるまで待つか?」

「いや、いい。昨日考えとけっつったけど、アイツはどうせ何も考えてねぇだろうからよ」

「そうか」



俺の指す『アイツ』が東堂ではないことを察してか、金城は小さく笑った。












「…迅、みんなどしたの?」

「今泉、鳴子と手嶋、青八木で勝負して2年が勝った」

「だからか〜……純ちゃん頑張ってるなぁ…!顔が!」

「顔かよ。つか、下の心配してる場合じゃねぇだろお前は」

「えー!ちゃんと先生とお話ししたよ!?」

「先延ばしにしただけだろうが」

「『建前を考えてくるのでちょっと待ってください』と言い出した時にはどうなるかと思ったが、なんとか先生も納得していたよ」

「そうだよ!納得してたんだよ!」

「あー分かった分かった!…ったく お前は、いつになったら手がかからなくなんだよ」

「?」

「まだしばらくは無理だと思うぞ、田所」

「しばらくで済めばいいけどな」



何が?と首を傾げてやがる心の頭をぐしゃぐしゃとなで回して
「いいからちゃんと考えてこいよ、建前!」と言えば
はーい!と間延びした返事が、なんでか楽しそうに返ってきて呆れた。



1、2年よりもお前の方が








ぽど



手がかかるんだよ。










→19.なにより



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