Gerade-D-

□1番で
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インターハイ最終日、スタート10分前
みんなが緊張してて、思わず手を握りしめてしまうような、そんな空気だったのに
それを壊すみたいに、その人は現れた。



「きゃっ」

「かわいいのうキミ、カレシおるの?1年生?」



幹ちゃんの悲鳴に振り返ったら
知らない男の子が幹ちゃんの肩に手を回してて
すごく嫌な感じがして、純ちゃんや一ちゃんが声を発するよりも先に

私は思わず、手が出て



「幹ちゃんに触らないで!」

「ここちゃん…!」



その男の子の胸に伸ばした手は
突飛ばすくらいのつもりだったのに、びくともしなくて
腰に手を回されて、逆に引き寄せられて



「キミもええのう」



そう言って、にたりと笑うその男の子が、少し怖くて



「キミもカレシおらんのやったら、どっちかワシとつき合わんか?このレース終わったら。…なんなら両方でもええよ?」



やなのに、声が 出なくて、



「寒咲さん!?」

「何やねんあいつ…!心さんっ!!」

「ったく…レース前に何を変な奴に捕まってんだアイツは…!」



「もちろん、ただでとは言わんよ」



脚を撫でられる感覚に、
また手に力を入れたけど、それでもやっぱりどうにもならなくて



「っ…!」

「アホお前…ッ!その人に触んなッ!離せボケッ!横分け野郎!!」



「…エエ…このワシがトップでゴールしたら、でどうじゃ?」



「くそッ!!ええから離せ言うとるやろッ!!聞いとんのか!!」



コースから聞こえる章ちゃんの声を無視して 進められる話が、うまく頭に入ってこなくて



「何を調子にのっている…寝言は寝て言え、セクハラ野郎。うちのマネージャーからその汚ない手離せ」

「あいこちゃん…!だめ…!」



そんなうちに、あいこちゃんが助けに入ってくれたけど、
でも、あいこちゃんに何かあったら裕くんが怒るから、

だめなのに、



「あンの、バカ…!何してるっショ…!」

「…キミも可愛い顔しとるのう。総北サンは自転車だけやなく女の子のレベルも高いんじゃなァ」

「私が可愛いのは世界の常識だバカ野郎。その私が、その汚ない手を離せっつってんだよ!」

「…そうじゃのォ、」

「優勝もうちのマネージャーもアンタじゃ相手にもならんよ!!役者不足だからさっさと帰れ!!」

「…けどワシ、」

「待て!そっちは…!」



やっとするりと、離れた腕に力が抜けて その場にへたりこむ。





「モっとるよ?“ホシ”…!」





止めたいのに、なんとかしたいのに、足には力が入らなくて
どうしよう、どうしようってそればっかりで、


何もしないで



みんなに何もしないでって
ただ繰り返し思うだけで精一杯



「あ、あの!待ってください!総北は、わっ」



ドシャ、とロードの倒れた音が聞こえて我にかえれば
またにたりと笑って彼はコースを離れていく。

入れ替わりにみんながバタバタとコースに入っていくなか、未だに立ち上がれずに居れば、
章ちゃんが駆け寄ってきてくれてほっとする。



「心さんッ!」

「…章ちゃん、」

「大丈夫すか!?」



章ちゃんはすごく、怒ってるのと心配したのが混ざったような顔をしてて
もうすぐスタートなのにコースの外まで来てくれて
私が元気で応援しなきゃいけないんだから

大丈夫って言わなきゃ、



「、大丈夫、ちょっと びっくりしただけだよ!」

「せやけど…!」

「…みんな待ってるよ?私も、みんなが1位でゴールするの、ちゃんと 待ってるよ。大丈夫だよ!」

「…心さん、」



手が少し、震えてたからうそって思ったかな?
昨日、フリじゃないって言ったのにごめんね。
ゴールした時怒ってもいいから、


今だけは、大丈夫って言わせてね。



「約束だよ!頑張ってね、章ちゃん!」

「……絶対優勝するんで、ちょっとだけ待っとって下さい」



立ち上がるのに支えてくれた章ちゃんの手が
私の手を少しだけ強くぎゅっと握って、コースに戻ってく。

そしたら手があったかくなったから、章ちゃんの手はすごいなーって思ってたら
入れ替わりにあいこちゃんがコースから戻ってきてぎゅっとしてくれた。



「ここちゃん…!ごめんね!!すぐ助けてあげられなくって…!あの広島野郎絶対許さない!!」

「ううん!あいこちゃんに何もなくてよかった…あいこちゃんに何かあったら裕くんに怒られちゃう」

「…それは…!ケンカを売った時点で…手遅れかもしれんな…」

「じゃあ私も一緒にごめんねって言う!きっと許してくれるよ!だって私と幹ちゃん助けようとしてくれただけだもん!」

「ここちゃん…」


「でも今はとりあえず…」

「うん!応援頑張ろう!!」





総北が









1



ゴールするって、信じて。









→14.せやけど


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