B-S

□涙雨‐ナミダアメ‐
1ページ/3ページ





佐助





佐助!






………佐助?










「幸村様」

名を呼ばれて、ビクリと肩が揺れる。

「才蔵か」

「はい」

「入れ」

「失礼します。どうかいたしましたか?」

「いや、」

自分は何をしていた?
夢から覚めたばかりのようにぼんやりとした頭で周りを見る。
自分の部屋、自分の机、その上にある書きかけの書状。

そういえば確か、溜まっていた執務を片付けていた最中だった。

「寝ていたか?」

「少し」



「……佐助は?」

いつもなら真っ先に叱りに来るのに、珍しい。

「佐助?誰ですか、それは?」

訝し気に尋ねる才蔵に目を見開く。

「なっ…?」


誰?


ぼんやりと思考に霧がかかる。
一体それは誰だっただろうか?

「その者がどうかしましたか?」

「……いや、何でもない。それよりも何の用だ?」

「お茶をお持ちしました」

「お前が、か?」

「はい」

適温で入れられたお茶と幸村の好きな店の団子。
完璧なはずなのに、何かが違う。

「いつもの事ですから」

「……そう、だな」

いつもの事の筈なのに微妙な違和感。
何かが欠けているような、何かを忘れているような。

「報告は後に致しましょうか?」

「今で構わぬ」

「では、」



もしかしたら、戦の前で少し疲れているのかもしれない。

今日は早めに休もうかと思った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ