ortensia
□雨と廃屋
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ザアザアと廃虚に雨が降る
にわかに曇り出したと思えばあっという間に水滴は野晒しになっている建物にも容赦なく激しい音をたてて落下してきた
「降って来ましたね…雨漏りしなければ良いんですが」
「…ここも古いからな」
「そうですね、もうすっかり思い出が染み付いてしまいましたよ、此処には」
何時もの笑みを浮かべたまま廃虚の中を進む骸の後ろをついて歩くランチアの顔は骸に操られていた頃とは違い、正面から骸を捉えていた
「…もう帰ってしまうんですね、ランチア先輩」
「ああ…」
「イタリアですか…僕もイタリアに居る事は居るんですが、会えはしませんしね。」
沢田と戦った姿のまま残っているソファに腰掛け呟いた骸の言葉はランチアの瞳を曇らせた
確かに今此処に骸は“居る”が此れはあくまで仮の姿。骸の身体は今は冷たい水の牢獄の中。
五感も力も封じられた状態で
「…そんな顔しないで下さい、僕が全て悪いんですから。貴方はちっとも悪くなんかない…寧ろ貴方は僕に利用された人間なんですから、喜んでも誰も攻めませんよ」
「……」
でもそんな事をこの人が出来ない事は分かっている。この人は本当に優しいから
「…もしあの場所から出られたら、貴方と一緒に…」
ガラガラガラガラ!
「……落ちた様だな」
「……そろそろ出ないと間に合わないかもしれませんよ」
「…そうだな」
ランチアが出ていった後、遠ざかっていく雷の音を一人で聞きながら骸はふ、と髑髏に身体を帰した
「………骸様」
―…もう会う事もないかもしれませんね、先輩には
「…骸様は…会いたいんでしょう?」
―……クロームは鋭いですねぇ
誰かと違って、と呟くと骸はランチアの顔を思い浮かべた
ヴァリアーの精鋭を壊滅させ新ボンゴレ10代目を守った彼は戦う時に辛そうな表情を浮かべては居なかった
それは自分の意思から来る物である事は直ぐに分かった、もう彼は骸に操られて人を殺している訳ではない。今の表情は寧ろ出会った頃と同じ…
―僕の好きな先輩の表情です
「骸様…」
―ボンゴレには礼を言わなければなりませんかね
あの頃の先輩を、表情を戻してくれてありがとう、と