暗い

□愚か者
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無駄に広いダンスフロアにキラキラと光るシャンデリア。人に酔わないように必死にあのシャンデリアをネックレスに替えたら、指輪にしてみたらいくつ生産出来るんだろうなんて事を考えてるうちに標的を見失った。しまった、追わなければ。私は力を込めたら今にも割れそうな硝子のグラスに入ったシャンパンが零れまいと注意しながら成金ばかりの人込みを避けていった。




今回の任務は哀れな男の抹殺。そしてその男は今私の目の前で無残な姿になって転がっている。先程までベラベラと喋っていたとは思えぬ姿で。そして先程まで綺麗な青を纏っていたはずの私の身体は汚い赤いに染まっていた。これがあいつの血だと思うと反吐が出る。街の貧しい住民から金を絞りとっていたときの威勢は微塵も感じられず、カウントダウンを始めたら大慌てしながら目から涙を流し、許してくれと懇談してきた。バカじゃないのと一言言えば蒼白になる顔。そんなクズの最後の言葉は、



「遅かったじゃない」

「…途中で見失っちゃったの」

「ワオ。馬鹿じゃないの、君」


何処から、何時からいたのか恭弥が私の肩にコートをかけてくれた。彼も任務を終えたばかりなのか綺麗な頬に鮮血が付いている。


「ねぇ。呪ってやる、って言われちゃった」

「誰に?」

「さっき殺ったやつ」

「ふぅん」


頬の鮮血を拭いながらうなじに唇を近付ける。


「私、呪われちゃうのかな」

「何。今更そんな事」

「だって恐いじゃない」

「僕達は生まれた時から、呪われてるでしょ」

「ん、」

二つの唇はまるで最初は一つの物であったかのようにお互いを貪り続けた。嗚呼落ちていく。落ちていく。水なんて生易しいものなんかじゃなくて、ジェルにゆっくりと、ゆっくりと飲み込まれていくような。感情で表すと「恐怖」に近いと思った。


「・・・泣いてるの?」

「そうね、私達は呪われてる。今更増えたってどうって事もないかもしれない」


彼は悲しそうな、それでいて歓喜を覚えるような顔をして呟いた。















「姉さん」




foolish
(たとえ批難の眼で見られようと)




20090123.

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