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□淑女的狂恋
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※夢小説ではなくCP小説になります。苦手な方はご注意下さい。







「クソ餓鬼キルアの兄貴って言うから、どんなクソ男かと思ったら」

ティーカップの紅茶をずずっと啜って、猫背の女は向かい側から不躾に男を見た。頭のてっぺんから手元までをしげしげと眺め、不愉快そうに細い眉を顰める。

「スケコマシじゃないの」

「初対面で暴言にも程があるんだけど」

負けじと思いきり眉を寄せて、イルミは溜息を吐いた。女と会っているのは、何も好き好んでではない。仕事の関係上、仕方なく彼女と連絡を取った。変わり者だとは聞いていたし、それなりに構えては来たのだが、それにしても彼女の見た目から振る舞いまで、全てはイルミの予想を超えていた。

「あんたみたいなチャラチャラした男、この世で最も嫌いなのよ。同じ空気を吸いたくない人種ね。おぞましい」

「チャラチャラって何?俺は仕事の話をしに来ただけだけど」

「世の中の女みんなをたらし込めると思ったら、とんだ大間違いよ」

「そんなこと思ってないし」

「……ったくふざけんじゃないわよ。せっかくの休日になんであんたなんかと……」

ぶつぶつと呟きながら、パームはテーブルの隅からシュガーポットを引き寄せた。口を付ける前に砂糖は入れていた筈だ。ティースプーンにグラニュー糖を山盛りすくうと一杯、二杯とカップに流し込んでいく。十杯程入れたあたりで、溶けきらない砂糖がカップに山を作った。気づいているのかいないのか、構わず砂糖は投入され続ける。

「まあいいわ。あの時の恨みをあんたで晴らすのも悪くないわね……ふふふ……そう考えると楽しくなってきちゃったわ。ふふ」

「あのさぁ、話進めていいかな」

「うるっさいわね!あたしの脳内に話し掛けないでよ!」

「脳内っていうか、現実の会話だよ」

「やめてって言ってるのよお!!」

長い髪を振り乱して、パームは息を荒くした。イルミは鈍く痛み始めたこめかみを押さえ、黙ってコーヒーに口を付ける。

仕事を受けないなら受けないで、それもまた困るのだけれど、早々に他を当たるという選択肢にならざるを得なかった。ところが、仕事はやるというのだ。だからこうして、大人しく彼女の妄想に付き合っている。

「それで、あたしの人魚さんにどんなご用かしら?」

「人魚……?」

「しらばっくれないでよ!!」

ダンっとテーブルを叩くと、パームはモンブランの山頂にフォークを突き立てた。青筋の浮き出た手でぎりぎりと力を込めると、ケーキ皿が中央から二つに割れる。

「あんたが……っ、人魚さんにお願いがあるって言うから!ごごごごうじで……っ!」

「ああ、分かった。そうなんだよ。そう、人魚さん」

「ふぐぅ……最初から言いなさいよ。危うく手が出るところだったわ」

ぜえぜえと息を整えながら、パームはハンドバックの中に凶器を戻した。財布やらハンカチなどと一緒に、使い込まれた三徳包丁を無造作に放り込む。

「居場所を知りたい人物が居るのよね?」

「そう。君の能力で突き止められるって聞いたんだけど、どのくらい掛かる?」

「どのくらい……?あたしを舐めてんの?」

うぎぃ!と押し殺したような呻き声を上げると、彼女は勢いよく自分の指先を噛み切った。本日何度目の癇癪だろうかと呆れるイルミを余所に、どこからともなく取り出した薄気味悪い置物に自分の血を注ぎ込み、口の中で何か唱え始める。

「可愛い可愛い人魚さん……」

「へえ。それに映し出すんだ?すごいね」

対面の位置から隣に移って、イルミは真横から水晶を覗き込んだ。中にはターゲットと思しき人物がゆらゆらと映り込んでいる。パームが弾かれたように奇声を上げた。

「ちょっと!!なに勝手に覗いてんのよ!あっちの席に戻りなさいよ!」

「どうせ俺の依頼なんだし、別にいいじゃん。あ、動いた。へー、どうなってんのこれ?」

「近付くんじゃないわよ!」

「あ」

短く発したひと言に、一瞬彼女が動きを止める。指先を頬に伸ばし、口元に貼り付いた髪をすっと払ってやれば、パームは声を詰まらせた。

「な……なっ……!」

「髪の毛口に入ってた」

「ふふふふざっけんじゃないわよ!あたしに触るなんて……!ぶっ殺すわよ!!」

「あれ?照れてんの?」

「いい加減にしないと……っ」

青白かった顔に赤みがさしている気がして、イルミは下からパームを覗いた。隠すように垂らしたすだれのような前髪で見えにくかったが、意外にも整った女の顔があった。もっと意外だったのは、パームの瞳に涙が浮かんでいたことだ。半泣きといった表情で俯いている。

「信じられない……あたしがこんな……」

「ごめん。誰にも言わないから」

「は?」

「能力のことさ。勝手に覗いたりして悪かったよ。念の詳細に関しては、絶対人に言ったりしないから」

「……もういいわ。いいから帰って。だから、あんたみたいの嫌いなのよ」

「帰れって?何で?」

「一生追跡されたくなかったら、さっさとあたしの前から消えて」

「うん……でもその前に」

折れそうなくらい細い腕を取って、指先を口に含んだ。ちゅっと吸って舌先で舐めてやる。

「さっきの傷まだ塞がってない。血止まってないよ」

「……っ!」

「ついでに、その口も塞いでみようか」

上目づかいで見やれば、潤んだ瞳と目が合った。つい先程まで半狂乱で喚き散らしていた女と理解しながら、それでも可愛く見えてしまったのだから、己の脳内も大差ないということだろうか。

「あたしを弄んだら……本当にぶっ殺すから」

「いいよ。殺されない自信はある」

「どっちの……って、どこまでも腹立たしい男」

いつの間にか手にしていた包丁を取り上げて、代わりに手を握った。彼女はもう振り解きはせず、しなやかな女の指でそっと握り返してきた。











2015/3/24

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