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□大嫌いな貴方へ
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にっくきイルミ=ゾルディックをギャフンと言わせるべく、何ヶ月にも渡って修行をしてきた。師匠に教えを請う為、日々の厳しい訓練に耐え、一見理不尽とも思える雑用や小間使いもこなした。そしてようやく、師匠と同じ念能力を自分のものにすることが出来た。
今日こそは今までの恨みを晴らしてやろうと、名前は路地裏で彼を待ち伏せていた。
思い起こせば、本当にいつも邪魔ばかりしてくれた。向こうは一流の暗殺者でこちらは駆け出し、力の差が歴然であるのは名前もきちんと弁えているつもりだった。
だから仕事がかぶらないように、関わらないようにしてきたのに、いつだって彼は最悪のタイミングで現れ、ちょいちょいっと軽くターゲットを片付けて、「あ、これって俺の手柄だよね」なんて抜かすのだ。
その癖、「まあ、別にいいよ。君が殺ったことにしても」なんて言って、せっかくこちらが申し出た報酬の折半を蹴ったりする。
更には、「君、弱いね」とか、「隙だらけで隙のないところが見付からないんだけど」とか、「もしかしてAカップない?」などと色々と許せない暴言を吐いては(特に最後のは)、黒髪を靡かせ涼しい顔で去って行く。
当然ながら名前のここ最近の目標は、“打倒イルミ=ゾルディック!”以外になかった。
バーを出たイルミはポケットに手を入れ、街灯の灯りを引き連れながらこちらに近付いて来た。建物の陰に身を潜めて、名前はその様子をじっと観察する。
上質そうなチャコールグレーのジャケットを羽織って、下は黒っぽいズボンに短めのブーツ。彼に遭遇するのはいつも仕事中なので、針の刺さった奇抜な戦闘服しか目にしたことがなかった。私服なんて初めて見る。
(ちょっと……格好いいかも……)
どこまでも完璧で腹立たしい。でも性格は欠陥だらけだけど!なんて憤慨しながら、イルミを目で追い続ける。あろうことか、彼は名前の待ち構える小路の二つ手前で左に折れ、姿を消してしまった。
(えっ?ちょ、ちょっと待って……!)
慌てて路地から飛び出して追い掛ける。曲がった先ではビルの壁に寄りかかって腕組みしたイルミが、呆れたような顔でこちらを見ていた。
「全然気配消せてないけど、俺に何か用?」
相変わらず見透かしたような物言いにカチンとくるが、実はこの展開も計算の内だった。尾行が彼に気付かれてようがいまいが名前には揺るぎない勝算があった。
「イルミ=ゾルディック、今日こそあなたと決着をつけるわ」
「決着も何も、君と決裂してるつもりないけど」
「いつも邪魔してくるじゃない!わたしが目障りなんでしょう?」
「目障りになる程、俺の仕事には影響してないよ。君が居ても居なくても俺への依頼は俺に来るし、予算のない場合は君に行く。別に問題ない」
相変わらず返答の全てが不貞不貞しく、これ以上の会話は無駄と思われた。名前は念能力を発動すべく、イルミとの距離をぐいと縮めた。思いきり背伸びをする。更にこれでもかと伸び上がってみる。
(あ、あれ……?届かないっ)
「何やってるの?」
「ちょっと黙ってて……!」
「何がしたいわけ?」
計算外だった。身長差を考慮していなかった。イルミの身長は180を優に超えていそうなのだ。160センチ程度の名前に届く筈もない。
「やだもう、どうしよう……」
「さっきから一体何なの?」
「念能力使うつもりだったのに、あなたの身長のせいで発動出来ないのよ……」
「念能力って?」
塀によじ登っている名前に、後ろからイルミが問い掛ける。登っている途中でイルミより頭の高さは上になったが、今度は体勢と距離的に不可能だった。振り返ってイルミを見やり、名前は力なく溜息を吐いた。