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□第三話
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 ある日、エリザベスおばさんが私を殴った。
とうとう暴力か。
さてはまた、男に逃げられたか?
その証拠に、たくさん酒を飲んでいた。

「あんたのせいよ! ……あたしに何かしたんでしょう!?」
「知るかよ! 私はあんたが押し付けた仕事で、そんなことしてる暇は無いんだよ!」
「な……なんて口の悪い! あんたなんか、引き取るんじゃなかった! この……人殺しめ!」

おばさんが、手に持っていた酒の瓶を投げる。
瓶は私の二十センチくらい右を通り過ぎ、壁にぶつかって割れた。
……瓶が割れる様に、私の体の奥で、何かが割れる音がした。

私は、すぐ横を瓶が通り過ぎても動かなかったので、おばさんは、私がびっくりしたのだ、と思ったらしい。
軽くせせら笑い、
「片付けなさいよ」
などと言う。
――もちろん、そんなはずはない。
この時私の中では、怒りと憎しみの炎が、すさまじい勢いで燃え上がっていた。

もう、耐えられない。
こんなブタ女、殺してやる!
私は割れた瓶を掴むと、叫びながら、エリザベスおばさんに向かって走っていった。
すると、エリザベスおばさんは、悲鳴をあげながら言った。

「待って! 許してちょうだい! あたしも言い過ぎたわ! なんでもしてあげるから! なんでも買ってあげる! 家のこともやらなくていいわ!」
私は、おばさんの前まで行って、足を止めた。
おばさんは、やったとばかりに、私の説得にかかる。

「ああ、メアリーちゃん。許してちょうだい。酒が入り過ぎたわ……」
けれど、私の耳には何も届かない。
何も聞こえない。
私は、体の力を抜き、ニッコリとおばさんに微笑みかけた。
おばさんは、許されたと思い、いつもの険しい顔に戻る。

私は言ってやった。
「知ってる? あんたみたいなブタ女は、早死にするって決まってんだよ!」
私は怒りにまかせて、割れた瓶を、おばさんの顔から腹まで振り下ろした!

――時間が、ゆっくりと過ぎる。

ああ、とうとう解放されるんだ……。

おばさんの顔に、瓶が刺さりそうになる。

あと少し。
さあ、早く私を解放して!




その時だった。
私の後ろから、
「待て! やめるんだ!」
と、誰かが言った。


――自然と手が止まる。
何? 私を止めるのは誰?
振り返ると男が一人、立っていた。
あのオオカミ野郎も居る!
男は、私に向かって言ったのではなかったらしく、私が振り向いてから、起きようとした惨事に気付いた。

「おわっ……これは!?」
次の瞬間、私はオオカミ野郎に引っ張られて、こっちに来たときのものであろう、空間の狭間に引き込まれた。
後ろから、さっきの男が悪態をつく声が聞こえた。
「クソ野郎が!」

――ここで、私の記憶は途切れた。
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