Short stories

□The Mirror-鏡の中にあるもの-
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――さっきの夢は、一体何だったんだろう?
アナトスはこれまで生きてきた中で、ユニコーンに会ったことも、話し掛けられたこともない。
というかそれ以前に、現実の世界にはユニコーンなんて幻想的な生物はいない。
たかが夢、と思うことも出来たが、何故かそれでは納得できなかった。

「鏡の中には――」
あのユニコーンが言っていた。
鏡の中に、何があるというのだ?
鏡に映るのは自分の姿と、その後ろにある背景だけだ。
決して問うようなことではない。
「何があるんだ?」
アナトスはガラスに映った自分に問い掛けた。



***



 その日の朝、アナトスは寝坊した。
「今日は大事な日なのに……。起こしても起きないんだから……」
「わかってるよ、そんなこと!」
アナトスは階下にあるリビングへと駆け込み、ぼやく母親に叫んでからまた飛び出した。

母親はアナトスと同じ大きな目をぱちぱちさせて、嵐のように去っていく息子を見送った。
「――あ、忘れた!」
玄関の扉を閉めた途端、忘れ物に気付く。
今日は大切な日。
「気をつけて行くのよ、油断しないでね」

扉を開けたその先に、いつの間にかアナトスの母親が立っていた。
「んー、わかったよ」
母親はアナトスにいってらっしゃいのキスをすると、にこりと笑顔で送り出した。
アナトスは玄関に置いてあった大きなトランクを引きずるようにして、また外に出た。
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