Short stories

□The Mirror-鏡の中にあるもの-
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――鏡の中には何があると思う?

白い、白銀に輝く馬が、湖の淵にひざをついた少年に言う。
馬はその額にねじれた真鍮の角を一本持ち、美しくたなびくたてがみは絹糸のように輝いていた。
筋肉質な背にある、鏡のようにキラキラと反射する翼が、ばさりと大きく羽ばたいた。

少年はぼうっとしてそれを眺め、知らない、というようにゆっくり首を横に振った。
――では、教えてやろう。……鏡の中には――。
白銀の馬ユニコーンは、ヒヒンと一回鳴くと、霧のように視界に溶け込んでしまった。
少年ははっとして立ち上がり、辺りを見回した。

そこは朝日の射す森の中で、大きな鏡のような湖面がただ少年を映し出していた。
「待って……それはどういうことなの!」
少年は遠くに見える木々に向かって、まるで湖の上に何かいるかのように問い掛けた。
もちろん森には早起きな鳥たち以外、音を発する生きものはいなかった。


その少年、アナトスは、はっとして飛び起きた。
そしてまだ夜も明けていない、暗く底冷えのする外を見る。
しかし窓の外は寒く、しかも中が暖かいため曇って何も見えない。
窓にはうっすらと自分が映っているだけだ。
アナトスは窓に近付くと、鏡のようにして自分を眺めた。

丸い輪郭をもち、ふっくらと健康的な印象を受ける。
ぱっちりとした二重のまぶたの中にある茶色の瞳は、その奥底に強い意志が眠っていた。
短めの黒髪は、さっきまで寝ていたせいで寝癖だらけだ。
アナトスは布団に潜り直し、さっき見た夢について考え込んだ。
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