KILLERS《キラーズ》

□第十四節
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《満月》



 あたしは今まで、ただのうのうと生きてきたわけじゃない。
同世代で普通の暮らしをしていて、何の危機感も持っていない人たちに比べたら、きっとその何倍もの経験を得ているに違いない。
だって、あなたたちは、親に虐待されたことも、ホームレスの人たちと生活したこともないでしょ?

そしてあたしには、今まで得てきた知識がある。
学校で習う内容ではなく、個人的に集めた事柄。
少なくとも中学や高校のテストには出ないようなものだ。
だから、大丈夫。
あたしには、知識がある。
みんなも、いる。

広いバーの中、あたしは周りを改めて見回した。
――入り口から続く階段、小さな窓、高くて丸い天井――。
「ダズ、小夜ちゃんをそのまま抱いててあげてね。その中の液体の温度が下がると、小夜ちゃんは死んじゃうから」
あたしはダズにそう言った。

――白い床、カウンターから離れたテーブル席、その間に置かれた間接照明――。
あたしはカウンター席の一つに座り、これからどうしようかと考えた。
まず、諸刃の言っていたレンタルラボに行こう。
諸刃の話が本当ならば、そこには小夜ちゃんを元に戻すために必要な色々な道具が揃っていることになる。

でも、本当にそんなことあるのかな……。
「諸刃、そのレンタルラボってさ、クリーンルームはもちろんあるよね?」
クリーンルームというのは、無菌室のことだ。
「ああ、言ったろ。そこには何でも揃ってるってな」
諸刃がにやりとして、あたしに返す。
よかった。

クリーンルームがなくては、小夜ちゃんを元に戻すことができないのだ。
あたしは少し疑いながらも、諸刃を信じることにした。
「じゃあ今すぐ、そこへあたしを連れていって」
小夜ちゃんの状態も調べたいし、今はこの一秒、一分も無駄にはできない。
――諸刃が素直にうなずいた。
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