†Lasting Town†

□透明人間の不透明な事実
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 ――砂嵐の中に、一つの影がある。
それは砂丘の上に寝そべり、目を閉じ、強風に舞い上がる細かい砂を身に被せていた。
遠くから見ると砂蛇にも見えるが――じきにむくっと起き上がった。
それは、一人の男だった。

シルバーブロンドで歳は二十代後半くらい、青白く冴えない顔をしている。
真っ黒なマントに身を包んだまま、男はゆっくりと起き上がった。
「……サハラですか」
疲れているのか、その声はしぼんだ風船を思い出させる。
砂嵐が轟々とうなっているのに、男の周りだけは何故か砂が避けていた。

男の目は、薄い青だ。
空の明るい光の下で見ると、余計に透き通って見える。
まるで、透明のガラス玉をはめた、人形のようだ。
「そろそろ、行かなければ……」
男は立ち上がり、ばさりとマントをひるがえした。
そのマントの内側は、燃えるように鮮やかな赤色だった――。



* * *



 「――起きろ、街よ」
黄昏時の廃れた街に、閃光が走った。
円形の街の中心にある、同じく円形の広場。
そこからまばゆい光が溢れ出し、その街の全てを包み込んだ。
そして、やがて光の津波がおさまると、その街はもう打ち壊されたボロボロの街ではなくなっていた。

――街が、起きたのだ。
家いえからは明るいオレンジの光が漏れ、オレンジ色の光の入った街灯も輝いていた。
広場の中央に立つのは、男物の黒いスーツを着た人間。

サテン地の黒いシルクハットが、街の明かりを受けて橙色に染められている。
街を起こしたのは、この人だ。
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