†Lasting Town†

□Lasting Town―幻の街―
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黄昏時も過ぎ、薄暗くなった森の中――。

とある古びた街の、古びた広場の中央に、誰か立っている。
その者は黒い男物の洒落たスーツに身を包み、同じく黒い洒落たシルクハットを深くかぶっている。

男か女かはよくわからない。
シルクハットを深くかぶっているせいで、その人物の目はおろか、鼻さえも見えないからだ。
「そろそろか?」
スーツ姿の者が言った。声からすると、女だろう。

と、突然、両腕を広げ、天に向かって叫んだ。
「さあ……始まりだ!」
すると女が、まばゆい光を放った。
その光は広場全体を包み込み、広場の周りの住宅や、高くそびえる時計塔までも飲み込んだ。
やがて街全体を光が覆うと、その光は閃光のように輝き――散った。

そして光が消えた一瞬の後、朽ち果てた街がまるで幻のように明るくなった。
街灯は一斉に灯を宿し、その光景は、かつてあったであろう活気が戻ってきたようだった。
建物もつい最近出来上がったような、新築同様に変化していた。

そこで、街の広場に、不思議な一行が姿を現した。
先程の女に加え、二頭の小さな子羊、丸々と太ったカエル、それに、宙に浮いたマントが増えていたのだ。

「この季節になって、ようやく夜が長くなってきましたね」
優しい男の声がして、マントがふらふらと揺れた。
浮いたマントには無く、本来体があるはずの部分から見た向こうは、レンズを通して見たように、ゆがんでいる。

「ワシにとっては、昼も夜も真っ暗だがのう」
次に丸々と太ったカエルが不機嫌そうに、しわがれた声をだした。
隣のマントと同じぐらいの背丈があるこの巨大なカエルは、二足歩行だった。
口調の通り、身体にも深いしわを寄せ、杖をついている。
今にもはちきれんばかりの灰色のスーツを着て、頭には山高帽を乗せている。

「それはドートおじさんが、いつも地下で酒ばっかり飲んでるからでしょ!」
二頭の小さな子羊が、声を揃えて言った。
見た目は、陶器で出来ている子羊の置物そっくりだ。
片方は赤、もう片方は青のリボンを首に着けていた。
きっと、首輪の代わりだろう。

「シーピィ、スーピア。ドートをからかうんじゃないぞ。……まあ、カエルになりたかったら、別だがな」
女が言う。
途端に子羊たちは、きゃあ、と叫び、笑いながら広場を出て行った。

「レディ、それはあんまりですよ。いくらドートさんでも、子羊をカエルには出来ませんよ」
マントが、風に揺られて言った。
どうやら、笑っているらしい。
「いいのさ、ミスター。ドートだって、あの悪戯っ子たちに何されるかわからない。寝ている間に熱いと思って起きたら、フライにされているかもしれないぞ」
マントと女が、一斉に笑いだす。
ドートと呼ばれた年寄りカエルは、フンと鼻をならしてから、朽ちた酒屋に入っていった。



「さて、ミスター。私はここで、準備をしなきゃだ。もうすぐ、久々の客人が到着するらしい」
ひとしきり笑ったあと、女が言った。
「ほう!そうですか。では、私めも失礼するとします、レディ」
マントは満足そうに返し、ゆらゆらと広場の奥の闇に消えていく。





そしてあとには、女だけが残った。
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