Short stories

□赤き血に飢えろ
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少女は家に着き、男をベッドに寝かせると目が覚めるまで看病し続けた。
そのうち男は意識が戻り、呆然として少女を見る。
すると、男の目が暗い闇をまとってざわつきだした。
呼吸がわずかに荒くなる。

少女はそのわずかな変化を見逃し、カタン、と椅子から立ち上がった。
その瞬間に男の気がつき、荒くなった呼吸を残して正気に戻った。
「気がついてよかったぁ。おじさん、今温かいスープを持ってくるからね」
七歳ほどの少女だが、しっかり者らしい。
幼い声で優しく笑った。

男は少女が部屋の奥へ行った間に呼吸を整え、額に手を当てた。
 ――身体中を血が駆け巡るようだ。
私の細胞という細胞が、血を求めてうずいている。
優しい少女を手にかける訳にはいかない――。

少女が木でできた器にスープを入れ、走るようにして戻ってくる。
男は頭を振り、優しい少女を曇った瞳で迎えた。
「どうぞ、おじさん」
木の器を渡し、にこりと微笑む。
「どうもありがとう。君は――?」
男はそれを受け取ると、見覚えのない少女に尋ねた。
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