OTHER-D-

□恋しくなる
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プロプレイヤーとして最新の情報には敏感であるべき。

それは勿論そう思うし、プロを名乗るからには積むべきものは積んでいる。
ただ僕が『熱心』かと聞かれたら、笑って誤魔化すしかないかな。


本当に熱心な人間に、惹起されてると言った方が正しいだろうから。




新しいカードパックが出る度、僕が待ち望むのは
強力な効果を持ったレジェンドフォロワーでも
革新的なスペルでもなく





「あなた新しいカード引いた?」





なまえからの この言葉だったりする。



「うん、ほとんど引いたんじゃないかな。どれ?」

「これ」

「持ってるね。それを聞いてくるってことは対策バトルのお誘いかな?」

「そう」

「付き合うよ。夜でも良ければ」

「時間は任せるわ」

「じゃあ手が空いたら連絡するよ」

「助かるわ。よろしくね」



中学の頃から、対策という名の『研究』に余念がないなまえは 定期的にルームマッチを持ちかけてくる。

ランクマッチじゃ目当ての使い手と集中して何戦も、とはいかないし
当たってもプレイングがおぼつかなきゃ意味がないからと
「腕は信用してる」らしい僕を指名してくれるのは嬉しい限りだ。





「もうすぐ全国大会だけど…この調整はそのため?」

『プロリーグ用よ。全国大会なんていっても参加者の大半は一般人でしょう?』

「あんまり乗り気じゃないみたいだね」

『…そういうあなたは珍しくやる気みたいね』

「今回は戦いたい子が居るんだ」

『…ふーん』

「前に話したタクマが変わるきっかけになった子、きっと出てくると思うんだよね」

『……そ、』



対戦、デッキの調整、対戦をひたすらに繰り返すその間
通話を繋げていられるのが嬉しくて、気のない返事が増えても ついつい話かけてしまう。

もう少し抑えた方がいいんだろうな、と…思ってはいる。
思ってはいるんだけど、タクマやなまえを前にすると どうしても止められない自分に苦笑した。





「…なまえ、もう1:30だけど寝なくていいの?」

『あと1…え!?うそっ』

「明日取材入ってるよね?」



予定があるのを知っていながらも
熱中するといつも時間を忘れてしまうなまえに甘えて
こんな時間まで声をかけられずにいるんだから どうしようもないなぁ…なんて思っていたら
まだ少し、続けたそうな声色が耳に届いた。



『…そうね、今日はこれで終わりにしましょ。悪いわね、こんな時間まで』

「僕は最後の一戦やっても構わないよ?」

『しないわよ。あなただって明日マジック教室でしょ。早く寝なさい』

「えっ!?」

『何、』

「僕の予定を覚えてくれてるなんて驚いて…」

『あなたが聞いてもないのに教えてくるんじゃない。私の記憶力はそんなに乏しくないわよ』



本当に、どうしようもない。
こんな些細なことですら 嬉しく思うんだって
口にはしないけど、頬が緩む。

なまえにとっては、何も特別な事じゃないだろうけど。


僕にとっては

取り繕わずに怒ったり呆れられたりする事も
練習相手として声をかけてもらえることも
ライバルだって言ってもらえることだって



全てが特別だと思えてしまう。



「ふふ、」

『…また変なこと考えてるでしょう…ま、いいわ。今日のお礼もいつも通り、また何か希望があれば言って』

「お礼なんていいのに」

『逆の立場ならあなただって何かしようとするでしょう』

「そうだね」

『だったら黙ってなさい』

「はは、じゃあ何か考えておくよ」

『よろしい』



僕としては、こうして時間を共有できるのが何より嬉しいからお礼も必要ないんだけど
それでまた共有できる時間が増えるのは大歓迎だから 喜んで受けとることにする。



『じゃ、おやすみなさい』

「うん、おやすみ なまえ」



通話が切れた途端にシン、と静まり返る部屋に物寂しさを感じる。

本音を言えば朝まで続けたって構わないんだけど
おやすみと交わすのも、好きだから 悩ましい。


だって
こんな日の夢は、決まって君に抱きしめてもらえる夢だから










くなる



君への想いはいつまで経っても焦がれるばかりだ。









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