OTHER-D-

□画面越しに聞こえるあなたの声を
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あの人に

認めてもらいたくて
必要とされたくて

ずっとやってきた


その気持ちは今でもはっきりと覚えているのに


その目にとまりたいと
心から思っていた その人が



居なくなってはじめて








その対象が
移り変わっていることを自覚した







『おはよう、ビートくん』

「おはようございます。何か用ですか」

『今日、お昼にホップくんとマリィちゃんとでキャンプして、その後バトルもしたいねって話をしてるんだけど…ビートくんもどうかなって思って』

「遠慮しておきます」



自覚したといっても、距離感が分からず
トーナメントに呼ばれて出向く以外はこの調子。

それでもポプラさんは 少しはマシになってきたじゃないか、と求めてもいないコメントを述べていた。


そりゃあね、

「どうしてエリートのぼくがそんな集まりに参加すると思ったんです」
「あなた達と違って暇じゃないんですよ」
「ホップくんがいれば十分騒がしいですよね?ぼくが行く必要性を感じらせません」

などと 自覚がなかったにしろ 散々な断り方をしてきましたから
それでも声をかけ続けてくれる彼女に



『…忙しい?』

「…それなりに」



こういう風に申し訳なさそうにされると対応に困るというか、
さすがのぼくも悪態をつく気が失せるんですよ。



…なんて建前も、そろそろ通用しないんでしょうね。



「来期に向けてジムチャレンジの内容を詰めているところですから」

『そっか、ビートくんがジムリーダーになったからオーディションする必要ないもんね』

「そういうことです。内容によっては内装の工事も必要だっていうのに、どこかのバアさんがうるさくて困ってるんですよ」



くすくす、と電話越しに小さな笑い声が聞こえてくる
そんなことを嬉しく思う日が来るなんて


あの人と会えない間に自分がどれだけ成長して
何を成してあの人に認められるべきなのか
ただそれだけに必死だった自分が聞いたら


そんな無駄な時間を過ごしている間にするべきことは山ほどあるんですよ、なんて言うだろう。



「まぁ、エリートのぼくがジムリーダーを務めるんです。あなたへ到達するチャレンジャーが現れないくらい完璧なジムに仕上げてみせますよ」

『ふふ、頑張ってね』

「そういうことですから、そちらはそちらで楽しんで下さい」

『うん。また誘うから、息抜きしたい時があったら来てね』

「タイミングが合えば顔を出してあげますよ」

『楽しみにしてるね。じゃあ、また』

「はい」



自分でも、信じられないんですよ。

想像するわけないでしょう



こんな些細な会話を、










越しに聞こえるあなたの声を



心地よく、いとしいと思う日がくるなんて。










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