OTHER-D-

□どうか 俺だけを、
1ページ/1ページ




俺は、ただの後輩で。



『弟みたい』



そう、思われてて、



分かってたんスよ。
そんな風には見てもらえないって、





“対象外”





なんだって、



「分かってるッスけど…!」



そう思わず口から出た言葉は、
夜風にさらわれてって 



俺は立ち尽くすしかなくて。





何も考えたくないのに、
頭にはさっきの光景ばかりが浮かんで消えない。

今回のイベントもスケジュールギリギリの夜通し準備で、辺りはもう真っ暗。

隊長は、早起きで帰ったらすぐ寝るような人ッスから…きっと電池が切れたみたいに寝始めちゃって
それでみょうじさんは優しいッスから、肩貸してあげてただけ、

とかそんなんだと思うッスけど、
分かってるんスけど…!



分かってても結局、寄り添って座る二人を 遠目に見ただけで どうしたらいいか分かんなくなって、
思わずその場を逃げだしてきた自分に嫌気がさす。


ほんと、

臆病で、

女々しくて、





無力な自分が嫌になる。



「…なんで、よりによって隊長なんスか、」



せめて、相手が大将だったら諦めもつくッスけど、
今の俺じゃ隊長とだって比べるまでもないくらい未熟で
それなのに、

『私は好きだけどなぁ、鉄虎くんみたいなタイプ』

ってみょうじさんが笑って言ってくれたのを真に受けて 浮かれてたッスけど
俺と隊長は似てるって、そういや前に深海さん言ってたッス…。

そうなると、隊長のことだって好きなタイプってことで
俺はそれに気付きもしないで勝手に浮かれて、期待して、もしかしたらなんて…マジで馬鹿みたいッスね。



それでも、
馬鹿だって分かってても、


忘れられそうにないんスけど、





どうしたらいいんスかね…?





似てるなら、俺じゃ駄目なんスか、

どうやっても、歳じゃ勝てっこないんスよ。
身長だってガタイだって、隊長のがでかくて
今の俺じゃ…って、また俺は言い訳ばかり並べて、何が『男のなかの男』ッスか!情けないッス!
こんなんじゃ選んでもらえなくて当然ッスよ!当たり前ッスよ!!


でも俺、頭悪いから…





「諦め方が、分かんないんスよ…!」





「鉄虎くん!」

「っ!」


少し遠くからみょうじさんの声がして、痛みを上げていた胸が更にぎゅっと痛む。
また泣いてると思われたくなくて、聞こえないふりをして声の方に背を向けたまま涙を拭った。



「忍くんが急に走ってどこか行っちゃったっていうから…どうしたの?大丈夫?」

「…すんません。大丈夫ッスから、俺のことはいいんで三笠さんは先に皆のところに戻って下さいッス!俺もすぐ戻るッスから、」



口ばっかり、


気持ちばっかり、



理想であろうとする。



行かないでほしいって叫ぶ心を必死で無視して
せめてこれ以上かっこ悪いところは見せないように、強がって笑ってみせる。



「…話、聞くよ?千秋先輩寝ちゃったし、少し休憩にしようって皆には言ってあるから」

「…そう、なんスか」

「うん、だから…私でよかったら何でも話してね」



あぁ…やっぱり、



「まぁ…私じゃあ、頼りないとは思うけど…できることなら、何でも力になるから! 」

「……本当に、優しいッスね。みょうじさんは」



どうしても、







諦められそうにない。







「…じゃあ、俺だけを見てくんないッスか、」

「…え?」



自分でも驚くくらい静かに出てきたその言葉は
ずっと思ってたことだった。

大将でも、

隊長でもなく、



他の誰でもない。
俺を見てて欲しかったんスよ。



「弟としか思われてないのは分かってるッス!けどもう、ダメなんスよ!限界なんスよ!!こんなこと言ってみょうじさん困らせるのも分かってるんスけど…!でも、それでも俺は…みょうじさんが好きなんス!!」

「鉄虎くん、」

「確かに俺はまだまだッス!大将にも隊長にも全然及ばなくて、頼りない男ッスけど…でもいつか男の中の男になって、みょうじさんを支えられる男になってみせるッスから!…だから!」



だから、









か 俺だけを、



縋るようなその言葉は、みょうじさんの腕の中に遮られて消えていった。








OTHER





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ