OTHER-D-

□そういう未来
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「伊作ー、」



怪我した後輩を脇に抱えて、医務室の戸を開けたそこには
何時ものように薬を煎じている伊作と、同じ歳くらいの見たこともねぇくのたまが居て 次の言葉が出てこなかった。



「留さん?」

「、…悪ぃ、邪魔したか?」


「留さんってば、何言ってるの?」
「いいえ、お構いなく」



ぎこちない俺に対して、2人は小さく笑った。
後輩を伊作に任せて俺は横目にくのたまを見る。

顔はそこそこ良いのに見覚えもなく、
くのたまに対して良い思い出なんか1つもねえのに、なんか気になってしょうがなくて。

こいつになら騙されもいいかもな…
なんて馬鹿なことが頭をよぎった。



「食満くん、ですか?」

「…はっ?なんで…」

「伊作くんがいつも食満くんのお話してくれるので、はじめましてなまえです」

「お、おぉ…」



名前を呼ばれた事もそうだが、どこかふわりとした頼りない印象だったのに、意外としっかりしてそうなギャップにも驚いた。
いやいや、しっかりしろ俺。くのたま得意の手口かもしれん。

にしても伊作のやつ…いらねーこと言ってねーだろうな…
いや、別に言われたからって何も困らねーけど!




「留さん、終わったよ〜」

「!お、おぉ」



礼言ったか?今度は気を付けろよ!なんて言いながら後輩の頭をなで回していると、
伊作からの視線を感じて顔を上げた。



「留さん何か今日…」

「?なんだよ」

「大人しくない?あ、なまえちゃんが居るから?」

「はあぁあ?!!お前、何言ってんだ!」

「え、冗談だよ?」

「て、めぇ!伊作コノヤロー!」

「あはは!」



笑ってんじゃねぇよ!と照れ隠しに伊作を蹴れば、痛いよ!とかぬすのでもう一回蹴ってやった。



「食満先輩の恋人なんですか〜?」

「え?」

「オイコラ!お前まで何聞いてんだ!」

「だってー!」

「あー、もう!悪い、気にしないでくれ」



少し目を離した隙にこれだ。
話ややこしくすんなよな、今日会ったばっかで恋仲も何もねぇってのに。
なんて心の中で悪態をついている俺をよそに、
なまえというくのたまは、問いかけた名も知らぬだろう後輩に、目線が合うようしゃがみこんだ。



「私、食満くんとは今日初めて会ったばかりだし、私は…『くの一』だから、恋人は多分ずっと出来ないの。だから…」

「『くの一』とかそんなもん、関係ねぇよ」



なまえの言葉に思わず、口を挟んでしまった。
俺らほどの学年にもなれば、くの一がどういう仕事かくらい把握している。
だからああ言ったんだろうが、それでも 今からそんな幸せを諦めるような答えを出すには早すぎる気がして



「食満くん…。ありがとう」

「あ?あー、おう…」

「…私と食満くんは、恋仲じゃないけど、もしかしたら…そういう未来もあるのかもしれないね」

「…はぁ?!」



ふわりと微笑んで後輩にそんなことを言っているなまえを見ていると、なんだか動悸が激しくなってくる気がして。
自分には関係ない、後輩に言っただけなんだと、自分で自分に言い聞かせる。



「そろそろ行かなきゃ。伊作くん、食満くん、食満くんの後輩くん、またね」



ひらひらと手を振って、保健室を出て行くなまえの後ろ姿を見送れば、伊作が笑いだす。



「あはは、よかったじゃない留さん!」

「お前なあ…!」

「一目惚れ?可愛いもんね、なまえちゃん」

「ちげーよ馬鹿!」

「卒業までの楽しみが増えたよ〜!」

「聞けよ!」

「なまえちゃん今まで恋愛面ガード固かったし、あの感じならチャンス大有りだと思うよ、僕」

「知るか!もういい!戻るぞ!!」



慌てて後ろを付いてくる後輩の声と
気をつけてねーなんて間延びした伊作の声を受けながら、作業場所へと戻るべく夢中で足を動かした。

それでも道すがら













いう未来



ってのが頭に浮かんできて、作業に集中できそうもなかった。








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