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□学校まで
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翌日、レギュラー陣のほとんどが
「おめでとう」と声をかけてくるから どうしてと思ったけど

当事者でなければ
「何かいいことあった?」って、思わず聞きたくなるくらい
鳳くんがいつも以上にニコニコしていて

別に隠すつもりだったわけじゃないけれど
仕方ないなぁ、これは。と目を細めた。



そんな鳳くんを

好きになってもいいのだと思えば
案外簡単に好意は湧いてくるもので

気がつけば 可愛くてつい甘やかしてしまうし
お願いにも、やっぱり弱くて



「あの、朝も家まで迎えに行ってもいいですか?」



という申し出に、期待に満ちた眼差しを付け足されて
断れるはずもなく すっかり一緒の登下校が日課になってしまった。



「みょうじさん!」

「おはよう」

「おはようございます!…あの、これ!」

「?」



そんなある朝 一番に差し出される小さな紙袋。
プレゼント仕様にされているそれを手に取り首を傾げると
鳳くんは俯きがちに言葉を続ける。



「付き合って1か月なので…記念に何かできたらと思って…受け取ってもらえると嬉しいです」

「…え!私何も用意してない…」

「いいんです!俺が何かしたかっただけなので!」

「…ありがとう。そっか、1か月でもこういうのするんだね。ごめんね、付き合うの初めてだからきがつかなくて…」

「そんな!俺はみょうじさんが一緒に居てくれるだけでとても幸せですから!」

「…健気だなぁ…」



そんな風に話をしつつ、歩きながらプレゼントを開けると
白っぽい、気持ちのよさそうな生地で作られたシュシュが入っていて
ふと、学校でも使えそうなものにしてくれたのかなと思う。



「これ、ありがとう。朝練でつけてもいい?」

「!はい!ぜひ!絶対似合うと思います!」

「ふふ、ありがとう。あ、そうだ!私に何かお願いごとない?」

「願い事、ですか?」

「うん。鳳くんのお願いごとを1つ叶えるの。それを1か月記念のプレゼントにしようかな…っていうのはずるいかな?」

「い、いえ!でも…」

「今すぐじゃなくて大丈夫だから、ゆっくり考えて?」

「いえ、あの…あるにはあるんですが…」

「なんでしょう?」

「………」



そこで沈黙してしまう鳳くんに
これはもしかして、良くない提案だった…?と身構える。
普段わがままも頼み事も言わず、何かと尽くしてくれているから
できるだけ叶えてあげたいと思うんだけど…と恐る恐る様子を窺う。



「…言いづらい程 難しいこと…?」

「あ、いえ…!…名前で、呼ばせて貰えたら嬉しいなって…」

「…どうぞ?」

「じゃ、じゃあ…なまえさんって呼んでもいいですか!?」

「ど、どうぞ……?」

「ありがとうございます!なまえさん!」

「…私これ、お願い叶えられたことになってる…?」

「はい!」

「えー…と、そんなのでいいの…?」

「俺には すごく意味のあることなので!」

「…鳳くんがいいならいいんだけど…」



本当にこれでいいのかな…となんだか拍子抜けの私が
鳳くんの言う『意味』を考えたところで分からないけれど
逆も意味があるのかな…と思いついてひとつ提案をする。



「じゃあ、この機会に私も鳳くんを名前で呼ぼうかな」

「え!いいんですか!」

「うん、せっかく付き合っているんだし」



鳳くんの反応を見るに、私が名前を呼ぶことにも多少の意味があるんだと安心して。
これでもお願いごとと言うには物足りない気がするけど、今日はこれでよしとしよう。と
呼び方をどうするかに考えを移す。



「長太郎くん、はちょっと長いかな。でも名前の呼び捨てはなんだか偉そうに聞こえる気がするし…」

「なまえさんが呼んでくれるなら俺、何でも嬉しいです!」

「ふふ…あ、ちょた。ってどう?響きも可愛い」

「なまえさんが呼びやすいので構いません!」

「…ちょた、」

「はい!」

「…嬉しそうだね」



試しに呼んでみるとあまりにも嬉しそうに返事をするから思わず笑いが込み上げて
ふふ、と小さく笑いながらそう言うと
また はい!と大きな返事が返ってくる。



「嬉しいです!せめて名前だけでも距離が縮まればいいなって思っていたので…」



照れくさそうにその『意味』をこぼした鳳くんに
私としては結構縮まってると思ってたんだけれど…
名前だけでも、と言ったところを見るとそうでもないのかなと思って またひとつ提案をする。



「……手でも繋ぐ?」

「え!?あっ、今のは あの……その…い、いいんですか…?」



私はそれを深く考えて言ったわけじゃなかったんだけど
立ち止まってまで動揺されてしまうと
なんだかすごいことを言ってしまったみたいで少し恥ずかしい。



「…そこまで反応されると、私も緊張するかな」

「すみません…!!」

「…じゃあ今日は少しだけ、あの信号のところまで」

「は、はい!…じゃあ、」



そう言って控えめに差し出された掌に 半歩戻って手を乗せると
きゅ、と控えめに指先を包んだまま動かなくて。



「…どうしたの?」

「俺、今日…ものすごく幸せで…どうしたらいいか…」

「今日って…まだ朝練も始まってないよ?」

「そうなんですけど…本当に夢みたいで…」



手を繋ぐだけでこんなに喜んでもらえるのがくすぐったくて また笑うけど、
なかなかそこから一歩が進まなくて私から手を引いて歩き出す。



「行こう?朝練始まっちゃう」

「…はい、そうですね」



私が引いた手は歩き出すとすぐに逆転して
鳳くんが優しく引いてくれる。

そして目に見える距離なんてあっという間で
信号が変わるのを待ちながら、青になったら離すかな なんて

自分で言っておいてなんだけど、引かれる手がなんだか心地よくて
離すタイミングの方が難しいかもしれないなぁ、なんて考えていたら

きゅ、と握られた手に力が入って鳳くんを見上げる。



「あの…もう少しだけ……いえ、やっぱり、離したくないです」



珍しく私の方を見ずにそう言った 鳳くんの顔は少し赤くて
私はつい、目を細める。



「…うん、じゃあ…」










まで



そう言うと、照れくさそうに、嬉しそうに笑う鳳くんのその表情を見られるのが 最近の私はとても嬉しかったりする。








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