jump comic-D-

□言葉の代わりに
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「告られたってマジ??」

「……」


誰に吹き込まれたのか、練習終わりに行った銭湯から 出てきて顔を合わせるなり
頭上からそんなことを聞いてくる健悟は相変わらず気がきかなさすぎる。
そんな健悟の横を、大西が信じられないって顔して通っていった。私だって信じられない。



「…まぁ。いつもの…にこにこしてるのがいいんだって」

「ンハッ!何そいつ超おっもしれー!!」

「…」



それが超面白いのは多分健悟だけですけどね。なんて思いながら冷ややかな目で健悟を見た。
幼馴染みなんだから、私がそういう風に告白されていい気しないの知ってるくせにね。呑気に笑ってくれるんだからね。
ほんと、デリカシーもなさすぎる。



「あ、でもそーいやこの前大平んクラス行った時もんなこと言ってるやつ居たっけ!!な、大〜〜平!誰だっけーあいつ!おーひら〜〜!」

「……」



そして考えなしすぎる。
そういうのは普通私の居ないところで話すことだと思うの。ほんっっと何も考えてないよね。

前を歩いている大平に手を振ったり跳び跳ねたりしてアピールしてるけど、大平は筧の後ろで 大西と筧先生トークを楽しんでるみたいでなんとか無視された。よかった…。



「……」

「なんだよー!そんな怒んなって!」

「別に怒ってないけど。いっそ皆が健悟みたいなら、私も周りとか気にしないで楽に生きられそうな気がするなって思ったけど、その発想がそもそも終わってるなと思って悲しくなっただけ。疲れてるんだ私」



健悟みたいのばっかだと多分世界終わるし、筧みたいなのがその分居ないと困る気もするけど、それはそれで面倒くさそうだし…とか意味のない連想してる辺り本当に疲れてるのかもしれない。

そんな私とは裏腹に、お風呂上りに買ったアイスを口にくわえながら
歩道端のブロックの上を歩いたり、塀の上に居る猫をビビらせたりして気儘に歩いてる健悟に 思わずため息をついた。



「聞いてないよね」

「?疲れたんならやめりゃいーんじゃね?」

「…出来たら疲れてないんですけど。馬鹿なの?…ごめん、馬鹿だったね」

「筧も言ってたって!犬かぶる必要ねーって!」

「猫ね。本当に馬鹿だよね」



別に私だって猫被ろうと思って被ってるんじゃない。
ただ、素の自分が見た目に合わなかったのと 人見知りが相まってこんな感じになっただけ。
人からどう見られてるかが分かるから、『思ってたのと違う』って言われたくなくて ついその印象に合わせる癖がついちゃっただけ。

それを健悟は 勝手に友達紹介してきて、挨拶すれば『コイツほんとはこんなじゃんねーよ?』とか言うし…

まぁ、筧はそういうの気にしない性格みたいだし、
大西と大平は筧以外興味ないっぽくて、
私がどんな態度でも何も変わらないから、なんだか気が楽で…結局 健悟に言われるままアメフト部にも入部した。
先輩達にはまだ若干猫かぶっちゃうけど、多少口が悪くなっても『水町相手じゃ仕方ないよな…』みたいな目で見てくれるから、居心地は悪くない。



「ん〜〜???」



何故か唸って歩いてる健悟を後ろから追いかけて
私ももっと健悟みたいに気儘に生きられるようになれたらいいのに…。なんて 憧れのような羨みのような、そんなことを思いながら目の前に散らばる服を拾っていく。



「…そろそろ道端で服脱ぐのやめなよ…高校生だし。いま夏じゃないんだよ?風邪ひかれても困るし」



そんな私の言葉にきょとんとした顔で振り返るから
大会あるんだよ?ちゃんと分かってるの?なんて言えばいつもみたいに大きく笑った。



「ンハッ!それそれー!やっぱなーんも問題ねーって!」

「…なにが?」

「ん〜〜なんで犬いんの?」

「だから猫ね。しかも答えになってないよね」

「ま、いーじゃんいーじゃん!」



そう言ってうやむやにされたことが一体何度あったことか。数えきれない。
私の悩みだとしても、いつもこうして健悟だけが納得して話を終わらせる。
こうすればいいとか、こう思うだとか、そんなのは一度だって上手く説明してくれたことなんかないけど

それでも、

問題なくなったって納得するまでは、ちゃんと私の話を聞いてくれてはいるから
いつも不思議と、じゃあもーいいかって気持ちになる。



「……うん。なんか、もう、どうでもいい気がしてきた…。部活あるし」

「そーだって!明日の朝練5時からな!!」

「……どうして1時間早くなってるの」

「今日校舎周り100周できなかったじゃん?それで俺考えたわけよ!時間が足りねーなら、もっと早くから走りゃいいってことだろ??」

「それは健悟が適当なメニュー言うからだよね!?」

「大ー丈夫だって!筧もやるっつってたし、なまえも付き合えよー!」

「朝5時から??嘘でしょ…嘘って言って」

「ちょーマジだって!」



なんなら4時からでも構わねぇよ!なんて言い出すこの男は
気がきかないし、デリカシーないし、考えなしすぎだし、勝手気儘だし、馬鹿だし、すぐ脱ぐし、無茶苦茶するけど

それでも、
私の話を聞いて、私に居心地のいい場所をくれる。

それは、偶然だったのかもしれないけど



「…仕方ないなぁ…」

「ンハッ!さっすがなまえ!」



感謝してないわけじゃない。
でも、それを言葉で伝えても きっと伝わらないだろうから



「かーけいー!なまえも来るってよー!」

「そうか。よし、じゃあ明日から朝練は5時スタートだな。遅れんなよ」

「…マジなんだ。まぁ、筧だもんね…」

「悪ぃな、朝早くから付き合わせちまって」

「いいよ。健悟の無茶苦茶なんて今に始まったことじゃないし。振り回されるのも慣れてるから」

「そうか」



だから、








の代わりに



無茶苦茶にくらい付き合ってあげる。







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