Magazin&Champion-D-

□四ヶ月半
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『やっぱ俺のこと好きになってきた?』

『……そうかもね』



問い掛けに、想定外の言葉が返ってきた その時は
おかしくて笑ったりもしたけど、



正直 それどころでもなくなって
あっという間に一月半が経つ。










「自分の考えを相手に押しつけんな、ゾノにそう言われました」



考えたところで、どうにもならない部分があるのは分かっていても
野球のことばかり考えるのは もう癖に近くて



「や…ゾノの言いたい事もわかるんですけど、やっぱり一番大事なのは本人の気持ちだと」



考え始めると、きりがない。



「俺の言ったことが気に入らなかったらそう言ってくれていいし」



試合のたびに増える不安要素。
沢村のイップスに、得点力の低い打線。

捕手として、キャプテンとして やるべきこと



「キャプテンだからって自分の主張を抑えなきゃいけないんですかね」



分かっているつもりでも
慣れない役割に疑問を感じて 答えを求めた。







俺は、哲さんに。

なまえは、倉持に。










「…お前らってそんなに仲良かったっけ?」

「!!テメェ!見てたんならさっさと出てきやがれッ!」

「いや偶然。今来たとこだし、マジで」



哲さんに話を聞いてもらって、少し靄が晴れた気がしつつ
校舎へ続く中庭を歩いていれば

ベンチの側に立つ倉持と、何か言葉を交わして立ち去ったなまえの後ろ姿が見えて声をかけた。



「ウソつけ!だいたいお前ら情報共有できてなさすぎなんだよ!」

「何?なんか言ってた?」

「お前がここ最近ずっと何か考え込んでっから 野球部は大変なのかって」

「直接聞きゃいいのに…そんで?」

「俺も同じ事言ったんだけどよ。『聞いても分からないだろうから』だとよ」

「はは、不器用なんだよなーアイツ」

「人のこと言えた義理かよ」

「はっはっは」

「笑って誤魔化すな!」



考えることがありすぎて、
少し話すようになってたなまえとの会話も 随分と減っていた。
だからといって何を言うでもなく、いつもと変わらねーと思ってたけど
倉持に聞くぐらいだから案外心配してたんだな。

話を聞くでもなく、気を紛らわすでもなく
ただ静かにそこに居るのが、アイツなりに気を遣った結果ってことか。

実際、なまえに話してどうにかなるような話でないことも確かだしな。

なんて思ってれば倉持がじっと俺を見るから
何?というような表情を返す。



「…そんなんで大丈夫かよ」

「ん?」

「先輩が『修学旅行の思い出共有できなくて別れる』っつってただろ。お前らも怪しいんじゃねぇ?ヒャハハ!」

「いや〜アイツが楽しそうに旅行の思い出語り出すとか想像できねーわ」

「確かにな。相変わらず本片手に無言がいいとこか、友達居ねぇし」

「それそれ」



とか自分たちのことを棚に上げて笑う










月半



ま、こんなでも俺達は大丈夫だろ。とか 変な自信持つくらいの関係は不思議と築けてるんだよな。










→11.五ヶ月





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