Magazin&Champion-D-

□忘れられる前に
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『もしもし』

「俺だけど」





『俺ってどちら様ですか。オレオレ詐欺ですか』





青道に入学して しばらく。
久々に電話でもしてやるか、と気が向いてかけてみれば
これでもかってくらい不機嫌な声で 聞こえてきたその発言に、噴き出しそうになるのを堪えながら誰が居るわけでもない部屋をのんびりと出た。



「いやいや、名前表示されてんだろ。そんな怒んなって」

『別に怒ってないし』

「ほんとかよ」

『2ヶ月くらいなら?まぁ?まだ?早い方だと思いますんで?』

「めちゃくちゃ怒ってんじゃん」



そのキレ方がまた面白くて 耐えきれず声色に乗れば
『笑ってんなよ』と更にトーンが下がるもんだから とりあえず黙っといた。

口の悪さは相変わらずなようで 一息つく。
ま、高校入ったくらいで人間そうそう変わるもんじゃねーしな。俺だってこまめな連絡とか無理だし。
なんて悪びれもなくそんなことを考える。



『っていうか、そろそろアンタの顔忘れそうなんだけど』

「いや、酷くねぇ?」

『酷くないし。高校の人達覚えなきゃなんないし』

「あ、そう…」

『甲子園にでも出てくんなきゃホントに忘れるから』



そう言われて、そういやそうだった。と電話してやろうと思ったわけを思い出す。



「まぁ、夏にはテレビくらい映んだろ。俺レギュラーだし」


『……』
「……」


『はぁ?ウソでしょ?いいよそういうの』

「ホントホント」

『…青道って強いんじゃなかったの?1年がそんな簡単にレギュラーなれんの?』

「はっはっは、俺だからなれんの!」

『うっっぜ』

「お前 相変わらず口悪いな…」

『ま、ホントかどうかは知らないけど、調子乗らずに精々頑張りなよ』

「いやいや嘘じゃねーから。ま、適当にやるよ」

『相変わらず軽薄な返事して…そんなんじゃ野球部でも友達できないでしょ』

「お、よく分かったな」

『……』

「いや、普通に飯食いながら話するヤツくらい居るって。無言になるなよ」



まぁ、寮だと飯の時間決まってるから一緒になるだけだけど。
なんて心の中だけで補足を入れても
『まーアンタに友達居ようが居まいがどうでもいいけど、』と結局そんな言葉しか返ってこない電話にやっぱり笑ってしまう。



「ひでぇ」

『仕方ないからテレビくらいは見といてあげる。じゃーね』

「……」



もうちょい躊躇あってもいいんじゃねーの?と思うくらい
じゃーね、で見事に切られた電話をポケットに突っ込んで
代わりに引っ張り出した小銭で目当てのものを買う。

ガコン、と落ちてきたアルミ缶へ 伸ばした手にかかる影を
誰だ?と思って顔を上げれば倉持で
言葉は発せず『なに?』というような顔をしてみた。



「お前、レギュラー報告するような友達居たんだな」

「…いるんじゃね、ひとりくらいは」

「ヒャハハ!だってお前ここじゃ友達居ねぇじゃん!!」

「友達じゃねぇけどな」

「あ?」



「彼女だから」



ニヤリと笑いながらそう言えば
「はぁ!?お前彼女居たのかよ!!」なんて予想通りの反応が返ってくるから
プルタブに指をかけながら、まーな、と気のない返事をした。



「もう顔忘れそうって言うような奴だけど」

「お前の彼女やってるだけあんな」

「はっはっは」



笑って適当に誤魔化した後、先輩達には言うなよ〜と一応釘をさす。
まぁ、こんな寮生活じゃそのうちバレるだろうけど
知られたら先輩達に絡まれるのは目に見えてるからな…

あんな口悪いの、誰の相手にもされねーだろうけど。

って言ったら俺殺されるな。うん、まぁ、
そんなこと思いつつも





『甲子園にでも出てくんなきゃホントに忘れるから』





あれが、なまえなりの応援だってのは分かってるから










られる前に


いっちょ優勝でもしてやるかな、と缶を片手に先輩達が居るであろう練習場へと足を向けた。








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