Magazin&Champion-D-

□あの頃に
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難しいことなんか 何も考えないで

昔のみたいに
ただ話を聞いて欲しくて あなたの名前を呼ぶ。



「なまえさん!」

「、ゆう」

「すいませんでした!」

「!?え、どうしたの…!?」

「前に八つ当たりで酷いこと言ったのを謝りに来ました」

「そんな…」

「信じてもらえるか分かんないですけど…あんなこと、思ってないんで。本当にすみませんでした」



そう言って、頭下げるのは 勢いで済んでも
いざとなると顔をあげるのは少し怖い、なんてまた女々しいことを思ってたのに



「…大丈夫だよ。あの時は ちょっと気が立ってただけ、でしょう?」



そんな風に言われると、顔を上げずにはいられない。



「そんな言葉で片づけていいことじゃないすよ」

「…本当に、大丈夫だよ。謝りに来てくれてありがとう」

「オレが言うのも変ですけど…もっと、ちゃんと怒った方がいいですよ。なまえさん」



本当に、そう思う。

オレはそれだけのことを言ったはずだし、
他の奴にもそんな簡単に何でも許すのかと思うと嫌だし

…何より、怒るなら怒ってくれた方が わだかまりも解けるんじゃないかと思う。


だってなんか、すっきりしない。

オレだって別に怒られたいわけじゃない、けど





「……最初は、私が悪いと思うから」





あぁ、ほら、やっぱり



違った。

これは 許されてるんじゃない、



最初から
『オレが悪い』ことにすら させてもらえてない。





「……」

「だから、これでおあいこ…にはならないかな、流石に。…ごめんね、悠人くん」



そう謝って、寂しそうに微笑む。
あたかも まだ自分が悪いかのように、振舞う。


そんな風に笑って欲しいんじゃない。


そう思っても
その謝罪が、何に対してなのか分かってても
これじゃ何も進んだことになってないって感じても

それを全部上手く解けるほど、オレは大人じゃなくて。


悔しかった。


そう、多分オレはずっと悔しかった。
一人じゃどうしようもなかったから。



「…オレ、なまえにさんにどう思われてるか怖くて、謝りに来るの遅くなったんですよ」



これでやっと、どうにか
なるんじゃないかって思ったのに



「なのに逆に謝られて…」





今、なまえさんと二人で話してるはずなのに





「こんなまま、何も、なかったみたいになるの いやですよ」







まだ、一人みたいだ。







「だってオレ……、好きだったんです。なまえさんのこと」

「……うん、」

「なまえさんも俺のこと好きでいてくれたんじゃないかって、どっかで思ってて」

「うん、」

「1年連絡貰えなかったけど、諦めたくなかった」

「…うん、」

「高校で彼氏できてたとしても、取ってやるくらいのつもりで…いたんですよ。でも、きっと隼人くんのこと追いかけてったんだって思って」

「…」

「高校も悩んで…ここに決めたってのに入学したらあんなで、周り全部くだんなく見えて、…なまえさんにもひどいこと言って」



言葉少ない相づちは、あの頃と同じなのに
あの頃の話を してるはずなのに

あの頃と同じ空気には



どうしてもなんなくて



「…仕方ないよ。私は全然、いい先輩なんかじゃなかったから」

「そんなことないです。オレの話聞いてくれるのなまえさんだけでした」

「…うん、聞いてあげることしかできなかった。だから悠人くんには、もっとちゃんと 叱ったり、支えたり…導いてくれる人が必要なんだろうなって思って…」





なんだよそれ

そんなの オレ、求めてないでしょ。





「それは私じゃ足りないって思ったから、離れて、忘れなきゃと思ったから、連絡もできなくて」





なんで、そうなんだよ

なんで。ただ一緒に居てくれるだけでよかったのに。





「そうして自分から離れたのに…気になって、心配で、忘れるなんてできなくて。でも 何もなかったように振る舞うのはむしがよすぎるから、どんな顔すればいいのかも分からなくて」





それなら、そんな風に思うなら

笑ってくれたら、それでよかったのに。





「…そしたら私も、どう思われてるのか怖くて。うまく話せなくなっちゃった、悠人くんと」





同じだった。


お互いに、臆病で、大切で

離れても どこにもいけなくて



きっと 寂しかった。



同じだった。
同じだったんなら、



「…早く言ってくださいよ、そういうの」










頃に



手を伸ばしておけばよかったって、心底、思わずにはいられなかった。










→07.バカみたいだ


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