Magazin&Champion-D-

□心の中で
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監督が取ってきてくれた試合もあと残り少ないな、なんて考えながら
真っ暗になってる空を視線だけで見上げた。


それは オフシーズンが近いってことを意味してて


つまりは、



試合のリードの振り返りに付き合ってもらってるからって理由で、みょうじさんを駅まで見送る理由がなくなるってことだ。

他校との試合がないだけで部活はあるから
『暗いから送る』とさえ言えばみょうじさんは嫌がったりはしない、と思うけど…

この時間がなくなるのを惜しく思うのはきっと俺だけだし
彼氏でもないのに毎日駅まで送るとか、ないよな…なんて考えてため息をつけば即座にみょうじさんからツッコミが入る。



「え、何ため息?」

「え、いや…もうすぐオフだな、って思って…」

「あ〜…冬の練習超キツイらしいもんねー」

「あー…それもあった…」

「それも?」

「なんでもない」

「そー?」



キャラ的には『何それ気になる〜!』って言いそうな感じだけど
みょうじさんは意外とそういうのはスルーしてくれるタイプで
「そいえば、」なんてすぐに別の話をふってくれるから正直すごく助かる。



「多田野くんってまゆゆ好きなんだね〜」

「………」
「……?」

「えっ!?なんで…知って…!」

「鳴先輩が言ってた〜」

「鳴さん…!!」



助かると思った矢先にまさかそんな話題がくるなんて思いもしなくて

なんて誤魔化すか、
いやまゆゆは好きなんだけど推しっていうか
そもそも女子的にアイドル好きな男ってどうなんだろ、
でももう誤魔化しようないし推しは推しだし好きな芸能人くらい皆普通に居るだろうしここは普通にうんって言っとけば…、



「いや、まぁ…うん…」

「私はこじはるかな〜!あ でも顔はこみはるのが好き!」

「そ、そうなんだ…」



良かった、あんまり深く聞かれなさそうだ…。とほっとして
よく考えればそんな焦ることでもなかったよな、と思い直す。



「でもそっか〜。黒髪清楚系好きなんだね〜それっぽい!」

「!?いや、でも、理想と現実は違うっていうか…!」

「……」
「……」



その一瞬の沈黙に
『しまった』と思うしかなくて



「好きな子居るんだ〜?」

「!?いや!そういうわけじゃないけど…!!」

「あはは。多田野くんこの手の話苦手そーだから、内緒にしといたげる!」

「だ、だからそうじゃなくて…!」



そうじゃなくて、
なんて言えばいいのか分からないけど、どこから否定すればいいかも分からなくて

まゆゆとみょうじさんって、見た目から全然違うタイプだし
好きな人とか、今の反応だと絶対違う人だと思われてそうだし
だからといってみょうじさんを好きだって言う勇気なんかなくて、口を閉じる。



誤解だ、ってそんな必死に訴えるような関係でもないし
困るよな、みょうじさんも。



そう思うと途端にあとほんの少しだった駅への道のりが遠く感じる。
なんか、静かだし…と思って隣を見れば目が合って
問いかけられるのはまた予想外の言葉。



「今の話、忘れよっか?」

「え?」

「な〜んか元気ないから!聞いたのマズったのかなって!今ならキレイさっぱり聞かなかったことにしたげるけど、どうする?」

「……」


きっとここで俺が『忘れて欲しい』と言えば
みょうじさんは本当に何も聞かなかったように振る舞ってくれるだろうし、こういう話題だって振らないでくれるんだろうなと思うけど
でもそれもなんだか…俺の勝手だけど、寂しいような気がして 答える。



「…良いよ。誤解さえなければ…」

「誤解?」

「まゆゆはあくまで推しだから好きなタイプとかじゃなくて…好きな人も…どっちかと言うと尊敬してるっていうか…」

「それってさー、鳴先輩〜とか言わないよね〜?ってか『おし』ってなに?」

「え!?あー…そのグループの中で一番応援してる、って感じかな…」

「ふーん、なるほどなるほど〜…じゃあ私は今、多田野くん推しってことだね!」

「!?」

「じゃ、今日もありがと!また明日ね〜!」




俺が驚いてる間にそう言って、みょうじさんはいつも通り軽く手を振って 改札を抜けていく。

何事もないみたいに。

いや、何事もないんだ。
みょうじさんにとっては、きっと たいしたことを言ったわけじゃないんだ。


そう自分に言い聞かせて心を落ち着ける。
それでも何とも言えない気持ちが押さえきれなくて



珍しく振り返ったみょうじさんに、







中で



『好きだ』と呟いた。










→11.分かんないよね


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