Magazin&Champion-D-

□寄り道
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「なまえ」

「なに?水樹、」

「……?」

「…忘れたの?」

「いや……」



帰り際、突然水樹に腕を引かれて足を止めた。
自分で呼び止めておきながら、首を深く傾げる水樹に
今日何かあったかな…とつられて首を傾げる。
まぁ、全然検討なんてつかないけど。



「じゃあどうしたの?」

「どうすればいいのか聞くのを忘れた」

「え、何が…誰に?」

「臼井」

「うーん…」

「どうすればいいんだ?」

「私に聞かれても困るかな」

「困った」

「うん、そうだね」

「…まぁ、いいか」

「いいんだ……?」



そんな調子で結局 疑問はどこへやら。
本人もよく分かってないことを、私が考えても仕方ないから
「行くぞ、」と腕を捕んだまま歩きだす水樹に
早く帰るの珍しいな…なんて思いながらついて行く。





「水樹、腕痛いかも」

「…めんぼくない。力が入りすぎた、細くて」

「……」



暫くして、歩きづらさをそんな風に言えば 手を離して謝罪をひとつ。
その謝罪に 絶対何も考えてないの分かってるけど、少し嬉しいとか、思ってしまう。

細いって、いや、ほんと、ない、
絶対何も考えてないからやめよ。
って、自惚れのような気持ちをなんとか端に追いやって水樹の手を掴む。



「大丈夫。でも引っ張るなら手にして」

「…おぉ…」

「…?」



一応付き合ってるんだし、これくらいは普通だよね…と思って水樹の手をとったのに
歩き出すでもなく繋いだ手を持ち上げて感動…?したみたいな声をあげるから
相変わらずよく分かんないな、とその場に留まった。



水樹は基本的にサッカーばっかりで、
私にもそれが当たり前すぎて
付き合ってるっていっても、恋人らしいことなんか何もなくて

正直 本当に付き合ってるって言っていいのかも分かんないくらい。

まあ、付き合う話も『うん』とは言ってたけどなんか曖昧なんだよなぁ…なんて告白された時の事を思い出しながら一人で唸ってたら
ぐるるるる、と水樹のお腹の音が聞こえてきて

そうだ、なんか子供みたいなとこが可愛いと思ったんだ、なんてついでのように思い出して小さく笑った。



「…ちょっと何か食べる?」

「!良いのか」

「ちょっとだけね」



今度は私が手を引いて歩くと
そわそわ、キョロキョロし始めるのが本当に子供みたいで。

アイスじゃ物足りないだろうから、クレープくらいにしてあげようかな。
甘いのでもいいし、甘くないのもあるし、なんて考えながら
そういえば結局今日は何でこうなったんだろって思うから、率直に聞いてみる。



「そういえば、水樹はどこに行きたかったの?」

「?」

「行くぞ、っていうからどこか行くところがあったんじゃないの?」

「特にない」

「…??」

「なまえを駅まで送ろうとしただけだ」

「…なんで?」

「臼井が送ってやれって」

「……?」



聞いてみたはいいけど余計分かんなくて
首を傾げたら、首を傾げ返されて 早々に諦める。

何でこんなに意志疎通がはかれないんだろう…まぁ、今のところそれで喧嘩になったりすることはないからいいんだけど…。
明日臼井に聞けばいっか。多分その方が早いし。
二人して臼井任せなのは申し訳ない気もするけど、それで今の私たちは成り立っているようなものだから仕方ない。



結局、二人でクレープを食べて
駅まで送ってくれた水樹はまた明日、と言ったわりに手を離そうとはしないから
手を繋いだまま、特に何を話すでもなく暫くその場に留まって

今日の夕飯は何だろうとか、出てた宿題や明日の授業、次の試合のこと、そんなのをひとしきり頭で巡らせて
特に考えることもなくなったから

「たまにはこんな風に帰るのも良いね」

と言えば、水樹は「うん。また明日」と言って帰って行った。





そのことを、次の日 臼井に聞いてみたら
水樹が、私と恋人っぽくならないことを気にしてたみたいで

『学校や部活だと皆が居るからじゃないか?たまには駅まで送ってみるとか…』

と助言したのをそのまま実行したんじゃないか?と臼井は教えてくれた。



臼井は二人きりになれば、って意味で言ったんだろうけど…
確かに水樹なら駅まで送ってどうするんだ?とか悩みそうだなぁ…と思えば、昨日首を傾げてた理由に検討がつく。
手を繋いだ時感動気味だったのも、まぁ、結果オーライ…ってことでいいのかな、多分。


でも、
水樹でもそんなこと思うんだ、とか
気にしてくれてたの可愛いなぁ、とか



「ねぇ、臼井」

「ん?」



そういうの、気付かされると

やっぱりどこか 嬉しくて





「名前で呼んであげたら、水樹 喜ぶと思う?」





もっと恋人らしくしても、いいのかなと思ってしまう。



「喜ぶんじゃないか?水樹なら」

「うん。私も、そう思う」



微笑みながらそう答えてくれる臼井に、私も返して席を立つ。

「寿人、」と一言呼べば
目を輝かせて












今日もどこか行こう。と期待したように言う水樹に、練習しなくていいの?と思わず笑い返した。







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