Magazin&Champion-D-

□あきらめて
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「…それは練習になってんのか?鳴」



ブルペンで、一人
誰に向かうでもなく構えては投げて

散らばって、転がり返ってくるボールを足で蹴飛ばした。



「なに!雅さん。俺忙しいんだけど!」

「…何かあったのか?」

「何が!」

「みょうじ…」
「別に何もないし!!!」

「…そうかよ」



雅さんがそうやってなまえの名前を出すから
思い出しては、嫌になる。

雅さんの口からなまえの名前が出てくんのがまず嫌だし
またふたりで何か話したのかと思ったら腹立つし
投げててもイライラして変な力入るし



どうすればいいか、分かんないし。



「っていうか雅さんどんだけ暇なの!そんなことで邪魔しに来ないでよね!!」

「『そんなこと』でそんな怒ってんのか?」

「別に怒ってないし!!」

「どこまでガキなんだお前は…」

「雅さんってば何言ってんの!?高校生なんてまだまだ子供だよ!?未成年だよ!?まあ雅さんはゴリラだから分かんないかもしんないけどさ!!」

「誰がゴリラだ」



雅さん以外居ないじゃん!!なんて八つ当たりみたいに言えば
ぶん殴るぞって返しと一緒に痛いところを突かれる。





「お前のは ただのくそガキだろうが」





痛いって、言ってんじゃん。
どれもこれも、ほんと、



「分かってるよ!最近こんなのばっかでやってらんないよ!なんでこういうのって一気に来るかな!分けて寄越してくれりゃいーのにさ!!」

「なんだ、自覚はあったのか」

「はいはい!どーせ俺はわがままで独りよがりだよ!!」

「…そんな言葉知ってたのか」

「うるさいな!監督に言われたの!!」



そりゃ最初はとにかくなまえにムカついてしょうがなかった。

終わりがあるつもりで付き合ってたとかほんとありえないし
分かってるって言いながら、俺の言ってること何ひとつ分かってないし
そんで勝手に諦めてさ

何でそういう考えになるのか全く意味不明だし理解できないししたくもないけど

でも、

そうじゃないって、なんか違うって違和感感じてたくせに
それに気付かなかったのは俺で
なまえを好きだって、ずっと言ってるつもりになって


言ってないのも俺だった。


執着して、拗ねて、文句言って、独占して、所有した気になって、当たり前に付き合っていけるって思い込んで





なまえも俺を好きになるに決まってる、ってそればっかで





「野球じゃないことでまでコケるとか…」

「だから言っただろうが『お前の業はもっと深ぇ』って」

「分かりにくいよ!もっとちゃんと言ってくんなきゃ分かるわけないじゃん!っていうか、何この自然消滅でもしそうな空気!俺別れるつもりないのに!困るんだけど!!どうにかしてよ雅さん!!」

「自分でどうにかしろ」

「どうにもできないから言ってんじゃん!!もう知らねーって言っちゃったんだよ?!」

「そこまで知るか」

「だいたいなまえだって悪いんだよ!自分勝手すぎ!!」

「お前が言うか」

「何!俺だけが悪いとでも?!全ては男の責任だとでも?!ゴリラ界ではそういうもんなの?!」

「まだ言うか」



そんなこと言ってる暇があるならさっさと話つけてこい、って言う雅さんに「分かってるし」と答えてボールをひとつ拾いあげる。

雅さんと話してたらなんとなく、気持ちの整理がついたような気がして
肩も軽くなったような気さえするのがおかしくて、ボールを手に持ったままぐるぐると回した。



「明日昼休みにでも言うよ。だから雅さん『来ないと授業サボってでも待つから』って言っといて」

「結局俺か」

「俺が教室まで行って変な空気になるより良いでしょ!なまえが来るの迷うのなんて目に見えてるし!可愛い後輩の頼みだよ!聞いてくれるよね雅さんなら!!」

「…今回だけだからな」



諦めたように返ってきたその答えに、さっすが雅さん!って言いながら
壁に向かって投げたボールはなんか、走ってた。





立ち止まるなんて、らしくない。
てっぺんしか興味ない。

わがままでもなんでもいい。
欲しいもんは獲りに行くから。





野球以外だって









らめて



なんてやんねーから。絶対に。







→09.これで、やっと


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