Magazin&Champion-D-

□誰か居ねぇのか
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「きっと、今だけだから」





鳴がお前についてあれこれうるせぇぞ、と
なんとかしろとでも言うように告げた時



みょうじがそんなことを口にした。



その一線引いたような言葉が

あぁ、これか。

とすぐに俺を納得させる。



「…そうだと思うか?」

「そうだよ。だって鳴くんは将来、プロで投げるでしょ?」

「…まぁ、そうだろうな」

「今でも鳴ちゃんフィーバーなんて騒がれてるし」

「……」

「日本で…んー、もしかしたら鳴くんのことだから将来はメジャーかも。まぁ、どこに居たって絶対 大人気の投手になるだろうから…だから、」



だから、と言ったまま言葉を続けようとしないみょうじに
鳴がうるさく言う気持ちが分からんでもない。


だから、

『今だけ』



だから 本気にはなれない、



とでも言うなら





それはあまりにも、報われねぇな。





そう考えながら思い出す。







『雅さん聞いて!!俺超いいこと思いついた!!』

『興味ねぇな』

『ドラフト1位でプロ入りするでしょー、そんで初めての試合を完投して圧勝するでしょー、で!その日のインタビューで結婚発表してやんの!なまえと結婚しますって!先にテレビで言っちゃえば断れないよね!!』

『そこはちゃんと聞け。だいたい甲子園が先だろうが』

『甲子園とか余裕だし!ただの通過点だって!!』

『調子に乗るな』







最初はアイツが騒いでるだけだったからそれでも良かったんだろう。
俺だって付き合う前にそのうち言い飽きるだろうと思ってたしな。
だが いざ付き合うことになれば 鳴がみょうじとの温度差を感じないわけがない。
結婚まで考えてるからな。アイツのことだから本気だろう。



「鳴が聞いてたらキレそうだな」

「…そうだね」



そう答えて静かに苦笑するみょうじを見ていれば、
それが昨日今日の考えじゃねぇんだってのは嫌でも分かる。


相手が鳴だからこそ考えるんだろうな。
その考えも、分からないわけじゃねぇ。

それでも、





「『今だけ』だと思うなら、先がどうだとしても『今くらい』いいんじゃねぇか。そこまで考えなくても」





「…そうなのかも。そんなに器用じゃないけど」

「そうか」



そう答えてまた苦笑したみょうじに、俺はそれ以上何も言わなかった。
結局は当人同士の問題ってのもあるが
「あーもー!こんなとこで二人で何してるわけ!?」と煩いやつが来たからだ。



「鳴くんの話」

「それさあ!そう言えば何でも許されると思ってない!?」

「んー…ちょっと思ってるかな」

「やっぱり!!バカにしてんの!?言っとくけど俺そんなに単純じゃないから!!」

「でも本当に鳴くんの話だし、ね」

「まぁ、そうだな」

「ほら」

「…じゃあどんな話だったのか聞かせてもらおうじゃん!!」



分かりやすく機嫌の悪い鳴に
「プロになったら鳴くんはもっと人気者になるんだろうなって」
の一言で済ませるみょうじを大人だとは思うが、



それを鳴に理解させるのは無理だろう。



「そうだよ!分かってんじゃん!捕まえとくなら今しかないんだよ!!そこんとこちゃんと分かってんの!?」

「うん、分かってるよ」

「はい嘘!全然!全く!これっぽっちも分かってないね!!分かってるつもりだよそれは!ただの つ も り!!」

「そうかなー」

「そ う だ よ!!」

「うるせぇ…」



俺がうるさいのはなまえのせいだから!!と喚く鳴を見て
コイツのこれになんだかんだ付き合ってるってことは みょうじにも気持ちがないわけでもねぇんだろうが、

それにしても…

同じ『今』の話をしてるくせに 全く噛み合ってないコイツらに
もう少しまともに話をしろって言う奴は







居ねぇのか



と、先が思いやられて 思わずため息をついた。







→05.忘れないように


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