Magazin&Champion-D-

□ただ
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放課後、部室に向かう道すがら
普段のオレなら素通りするところを、


この時ばかりは足を止めた。



「みょうじさん?」

「……」

「…?」



いつもなら、後ろから呼んだってオレだって気付く人なんだが…
廊下にしゃがみこんだまま無反応なみょうじさんに違和感を覚えて、控えめに肩へ手をかける。



「みょうじさん、」

「わ…、」



驚いてバランスを崩したみょうじさんの腕を 思わず掴んだが、あまり意味もなくそのまま地面へ座り込む。
そうなってやっとオレが居ることに気づいたのか 力無くオレの名前を呼んだ。
その声の弱々しさと顔色を見て、あぁ、体調が悪いのか…と納得して声をかけなおす。



「…大丈夫ですか」

「…あぁ…うん、大丈夫」

「そうは見えませんけど」



オレがそう言えば、へらりと力無く微笑む。
この人、これでいつも通りに振る舞ってるつもりなのか…?
顔色だって最悪だし、明らかに身体に力が入ってない。



「とりあえず保健室に…立てますか、」

「ううん、このまま…少し休めば、治まると思うから」

「……そうは見えませんけど」

「少し 頭が痛いだけで…」

「そうは見えませんけど」

「…い、今泉くん…」



困ったなぁ、とでも言いたそうな顔してますけど、困ってるのはこっちですよ。

オレから見れば、今にも倒れそうに見えるこの人を、流石にこのまま放置していくわけにもいかない。
全く知らない奴ならまだしも、よく見知った部活の先輩だ。
さっさと部活に行きたいのはやまやまだが、
おそらくこのまま話していても、話は平行線だろうと思案して
一瞬迷ったが、一番早いだろう方法をとることにする。



「ちょっとスイマセン」

「わ、わ…」



こういうのはガラじゃないんだが…放っておくわけにもいかないので、諦めて背中と足裏を支えて抱え上げる。
抱え上げられた当の本人は、驚きというには少しおかしな反応をして
慌ててオレのシャツを捕んだ手が震えているのを見て、オレはため息をつかざるをえなかった。



「…平衡感覚、ちゃんとあります?」

「わりと、ぐらぐらして、ます、ね」

「……保健室、行かなくても平気なんじゃなく、行けないんですね」

「そ、です、ね」



動揺からか、さっきと違ってあっさりと出てくる本音にもう一度ため息をつけば、小さくごめんねと聞こえた。



「そう思うなら最初から嘘つかないでもらえます」

「こんなに気にかけてもらえるとは、思わなくて…」

「……」



その言葉にオレは何だと思われてるんだろうかと疑問も湧いたが、
まぁ…普段の態度だと仕方ないのか…?と口をつぐんで、足を保健室へと向けた。





「今泉くん、」





薬を飲んで、休んでいくよう保険医に言われ
大人しくベッドに横になるみょうじさんを確認してから「じゃあオレ行きます」と言えば、呼び止められて

かけられた言葉にオレは眉をひそめる。



「金城に、遅れるって…伝えておいてもらえる?」



緩く伸ばされた手が頼りなくて慌ててすくい上げれば、
相変わらず全然力が入ってなくて、こんな状態で何言ってんだこの人はと思う。



「…駄目です。今日は大人しく休んで下さい」

「うー、ん…」

「マネージャーの仕事なら寒咲が居るんで」

「……うん」

「……」



静かに目を閉じたみょうじさんに、
ふと、今の言い方は何かまずかったかもしれない、と感じて何かないかとフォローの言葉を探す。



「あー、今のは、………」



まぁ、他人を気遣うようなコミュニケーションをとってこなかったオレに、うまい言葉なんて出てこなかったが
みょうじさんはかなり限界だったのか、寝てしまったようで そっと息を吐いた。

手を布団の上に離して、保険医に一言残して


オレは保健室をあとにする。













カーテンを開ければ、その音で目が覚めたのかみょうじさんがぼうっとオレの方を見た。



「あ、れ…」

「部活終わりました。帰れそうですか」

「……そっか、ありがとう。大丈夫」

「……」

「…本当だよ?」



疑ったのが分かったのか、苦笑される。
まぁ、顔色はさっきに比べればマシになってるし、あながち嘘でもないだろう。



「俺の手、思いきり握ってみて下さい」

「?」

「…嘘じゃなさそうすね」

「さっき怒られちゃったから」

「別に怒ってません」

「そう?」

「そうです」



ならいいんだけど、と小さく笑ったその表情が
やっといつものこの人らしい顔で、思わず上がりそうになる口角を誤魔化すように口を開いた。



「オレ帰り車なんで、今日は家まで送ります」

「…え?あぁ!大丈夫、一人でも帰れるよ?」

「もう金城さんにも、保険医にもそう言ってあるんで。送ります」

「…えっーと…、仕事が早いね?」

「…何言ってるんですか?何なら車まで抱えて行きますけど」

「自分で歩けるよ?」

「じゃ、行きましょう」

「…はい」



保健室を出れば、すでに外は薄暗くなっている。
家へ帰った後のメニューを思案しながら歩いていれば、
一緒に保健室を出たにも関わらず、隣に居ないみょうじさんに 歩くスピードが早すぎたのか、やはりまだ体調が思わしくなかったのか、と思考を持っていかれる。
そうして立ち止まって後ろを振り返れば、

みょうじさんは小さく笑った。



「…なんですか」

「今泉くんって、やっぱりやることがスマートだなって」

「…はぁ…?」

「あと、意外と心配性で、優しい」

「…そんなんじゃないですよ、オレは」

「そう?」

「そうです」



立ち止まっていたオレの隣へ同じように立ち止まって、今度は穏やかに微笑む。



「じゃあ今泉くんが知らないだけかもしれないね」



オレはオレ自身を優しいだなんて思ったことはないし、
オレのことを優しい奴だなんて言うのは多分、小野田くらいだと思ってた。

けど、ここにもう一人 居た。



「……オレのことをそんな風に言うのは、小野田とみょうじさんくらいですよ」

「そう?」

「そうです」


「きっとこれから増えるよ、今泉くんの優しさに気づく人が」


「…はぁ」



別に、増えなくてもいい。
誰に、気付かれなくてもいい。

そもそもオレは優しくないし、優しくしてるつもりもない。

もしそんな奴が増えたところで、きっとオレには何にもならないし、何の意味もない。





そう 思うのに、





「今日は色々ありがとう、今泉くん」





この人に言われると


まぁ、それでもいいか、とも思えて














黙って頷いた。








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