Magazin&Champion-D-

□これでいい
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「樹〜」

「何ですか、鳴さん」

「寂しい?寂しいんだろ?」

「…何がですか?」

「なまえが居なくてに決まってんじゃん!」

「意味分かりませんし、今打ち合わせ中なんですけど…」

「ほー!そんなこと言うのか〜」



ふーん!へーえ!と机を挟んだ向かいでわざとらしく相づちを打ってくる鳴さんにため息をつく。
明日が秋大の初戦で 調整だけだったから、暇を持て余してるんだろうけど…



「打ち合わせ、ちゃんとやりましょうよ鳴さん!明日試合ですよ!」

「大丈夫 大丈夫!俺が投げてて負けるわけないじゃん!任せとけって!ばっちり三振取りまくってやるから!!」

「そういうことじゃなくて…!」

「で?なまえと何かあったわけ〜?」

「だから、今それ 関係ないですよね!」

「なんだよ反抗的だな!いいじゃんちょっとくらい!!つまんね〜〜!」

「真面目にやってくださいよ!」

「真面目に気になるから聞いてんだろー!?だっておかしいじゃん!」

「…何がですか」

「アイツここ何日か全然ブルペン来てねーもん」



…それは、確かにそうで
別に学校や部活を休んでるわけではないのに、ここ3日くらい鳴さんとは全然絡んでない。
毎日のように仲裁に入ってた自分としても、違和感を感じずにはいられなくて、



「だーかーらー、ついに樹が告白でもしてフラれたのかと思ってさぁ〜」

「なんでそうなるんすか!しませんよそんなこと!!」

「ホントかなぁ〜?今言えば優しい先輩が慰めてやってもいいよ〜?ほれほれ本当のこと言ってみ〜?」

「しませんってば!!」

「じゃあ何で来ないのかな〜〜?」

「知りませんよ…」

「嘘だねー!!だって来なくなる前、お前ら一緒にコンビニまで行ってたじゃん!」

「行きましたけど…」



俺は鳴さんパシられて、
みょうじさんは駅の途中にあるからって
その途中のコンビニまで 確かに一緒に行った。





『そうだ!多田野くん、私もひとつ聞いていい?』

『え?…あ、うん』

『練習、鳴先輩が怒ってるのはやりにくい?』

『…?そこまでではないけど……後が面倒というか…』



その別れ際にみょうじさんが尋ねてきた質問を 不思議に感じつつ
最近はすぐからかってくるからなぁ…と思いながらそう返せば、みょうじさんはうーんと唸って



『器用な人だしその方が思いっきり投げてくれるかと思ったんだけど…あと、怒ってた方が御しやすいかな〜って』

『ぎょ、御しやすい…?』

『…うん、多田野くんのタイプじゃなかったね!』

『…?』

『うん、でもそっかー。多田野くんが八つ当たりされても可哀想だし、ほどほどにしようかな〜』



とか、確かそんな話をした記憶はある。あるけど…。
その『ほどほど』がもしかしてこれ…だとしたら極端すぎると思うんだけど…。

原田先輩に頼まれたって言ってたのに、やっぱり俺が邪魔してるんじゃ…なんてもやもやする俺をよそに鳴さんは相変わらずニヤニヤと顔を覗き込んでくる。



「ほーら!思い当たる節あるんじゃん!頼れる先輩に話してみ〜?何でも聞いてやるって!」

「…絶対面白がってるだけですよね…」

「そーだよ!何か悪い!?」

「……」

「っていうか、ほんっとーーに言ってないわけ?」

「だから、そういうんじゃないですって!」

「あーー!!この頑固者!樹は押しが足りないんだって!そんなんじゃ女子は落とせないよ!俺と違って目立たないんだからさ!もっと強気で押してかないとダメだって!!」

「…しつこいですよ、鳴さん」

「はあ!?お前が気づいてないから教えてやってんじゃん!!あー!俺って優しい!こーんなに優しくしてやってるってのに、何でどいつもこいつも俺のこと敬えない生意気な後輩ばっかなわけ!?俺先輩だよ!先輩は絶対でしょ!!」



気付いてない、わけじゃない



「…鳴さん、先輩にもタメ口だったじゃないですか」

「うん、間違えた!!俺が絶対だった!!」

「……」



いくら考えないようにしてたって、答えはとっくに出てる。



「つーか明日 初戦だよ!?そんな浮わついた気持ちでちゃんと捕れんの!?」

「捕りますよ!!例えこの腕が壊れようと!」

「はい 出た!お得意の精神論!!」

「…」

「てかさー、俺もう部屋戻っていい?いいよね??」

「え、打ち合わせは…!?」

「終わりでいーじゃん!どうせそんなにデータもないんだし!力押しでいけるって!だいたい俺先発じゃないし!!後半になんないと監督出してくんねーし!!」

「そんなこと言って興味ないだけじゃないですか…!拗ねてないでちゃんと…」

「は〜、調整だけだと体力有り余って仕方ないよ!あーあ、早く明日になんないかなー。投げてー」

「ちょ、ちょっと鳴さん…!」



そんな調子でミーティングルームを出ていく鳴さんを扉まで追いかけても



「あ、樹!後でアレ買ってきといてよ。この前も頼んだ炭酸 同じやつね!」



なんて言われたら、俺にはどうしようもなくなる。
原田先輩の時でも興味ない対戦校の時は原田先輩に任せきりにしてたし…





「はーー…」





コンビニ、行ってくるか。
と広げた資料を片付けながら、

なかなか上手くいかないな、と思う。

結局ほとんど話そらされたままだったし…
…みょうじさんが居たらもう少し違うのかな、なんて情けないことを考える頭を横に振たって

結局、気にしてる自分がいる。



「…あぁ、もう……」



別のことを考えてる余裕なんてないだろ。



ただでさえ俺は実力が足りてないんだ、

試合のことだけに集中しろ、



そんなこと考えてる余裕があるなら、

今は試合のためにできることをひとつでもやるべきだろ。と自分に喝を入れなおして、ミーティングルームの扉を閉める。








でいい



俺は自分の、できることだけを考えていればいいんだ。










→06.もしかしたら


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