Magazin&Champion-D-

□二ヶ月半
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「…あ、」

「? …珍し…」



夏休みもど真ん中、といっても毎日部活の俺達にとっては今日もいつもと変わらない練習漬けの一日…
になる予定が、珍しい来訪者によってちょっとした新鮮さを感じる。



「俺、先行ってるよ」

「おう」



先に見つけたノリが、俺とコイツに気を遣ったのか
それとも、決勝戦以来まだ調子を崩しているノリに、声をかけあぐねてる俺の側に居づらかったのかは分かんねーけど
先に寮へ戻ってく姿を見送って、珍しく顔を見せたなまえに声をかけた。



「よ。なんか久しぶりじゃね?」

「たまにはいいかと思って」

「前もんなこと言ってたよな。そういや あの電話きり連絡すんの忘れてたわ、悪ぃな」

「別に。用事もないのに連絡してこられても困るから」

「あ、そう?」



ま、別に悪いとか全然思ってねーんだけど。
助かるなーホント、手がかかんなくて。なんて考えてる俺をよそに
なまえがノリの歩いていった方を見るから不思議に思う。



「…何?」

「元気ないと思って。…さっきの…」

「…ノリ?」



難しい顔するから、名前知らねーんだな…とこっちから出してやれば首を縦に振る。



「あー…アイツ今、調子崩してんだ」

「…ナイーブそうだものね」

「…俺と違って、か?顔に出てんぞー」

「数少ない友達は大事にしたら」

「友達ねぇ…ま、先輩にも『お前が立ち直らせろ』とは言われてるんだけどな」

「…そういうの、向いていないと思う」

「はっはっは!同感」

「それが出来るならもう少し友達居るだろうし」

「……」

「性格もそんなに悪くなっていないと思う」

「……。え、何?やっぱ連絡しなかったの怒ってんの?」

「怒ってないけど」



いつもなら俺が笑って終わる会話が、ひとつもふたつも多く返ってくる返事に違和感を覚えて そんなことを聞けば、さっきと同じように難しい顔をするから
それは怒った顔じゃねーんだ…?なんて思いながらまた口を開くなまえの言葉に耳を傾ける。



「普通にいつも通り声かけてあげればいいんじゃない」

「普通ね」

「御幸に優しくされたらきっと胡散臭いだろうし」

「酷ぇ言われようだな…。久々なんだしもっと優しくしてくれてもいいんだぜ?」

「……」

「はい、無視」

「…向いてないこと無理にしたって伝わらないから」

「何だよ。俺と同じくらい友達居ねぇのに、そういうのは詳しいんだな?」



そう言いながらニヤッと笑ってからかえば、それにつられたようになまえまでふっと笑う。



「そういう方が御幸らしい」

「!」

「倉持くんに手伝ってもらったら。私は帰るから。午後も練習頑張って」

「…おう」



別に何も面白いことなんか言ってねーし、あそこで笑ってくると思ってなかった俺は驚いて
そのままあっさり帰るなまえを言葉少なに見送ったまま立ち尽くす。

まともに俺に笑ったの初めてじゃね…?つーか今の何だったんだ…?と思い返せば
細めた目に、いつもより緩ませた口元が




『御幸らしい』と脳内で呟いた。




俺らしい、か…。
確かに なんて声かけてやればいいのか、なんて迷ってる時点で



「らしくねぇよな、」



ってことに気づけば 気が少し楽になる。

ちょっとキャプテン任されたくらいで自分見る余裕すらなくしてたのかよ、俺は。なんて薄く笑って
もうなまえの姿が見えない道の先を見た。



立ち直り方は人それぞれだし
どうしてやるのが一番いいかなんて分かんねぇけど、まずは俺自身のやり方でやってみなきゃ何も始まんねーよな。
それで駄目なら別の方法を考えりゃ良いだけだし。

そん時は倉持にでも任すか。とまとまった思考にふっと息を吐いて、寮への道を辿り始めれば
余裕の出来た頭がまた違和感を訴える。





『向いてないこと無理にしたって伝わらないから』





その違和感の正体に気づけば、なんとも言えない気持ちになる。


あー…なんだよそういうことかよ…。そりゃ伝わんねぇわ。
人付き合いに関して 人のこと言えねーレベルのくせに…らくねぇのはどっちだよ、まったく。





「…不器用な奴」










月半



初めてかけられた励ましの言葉は、なんか すげーくすぐったかった。







→09.三ヶ月





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