Magazin&Champion-D-

□二ヶ月
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「アイツは?応援来ねーのかよ?」





市民球場へ到着したバスから、一歩外へ踏み出せば
同じ学校の奴らやOBからの声援がこれでもかってくらい宙を舞う。

夏休み入ったせいかギャラリー多いな…、なんて思っていれば
隣を歩いていた倉持がそんなことを聞いてきて 俺は首を傾げた。



「? アイツ?」

「一人しか居ねーだろうがッ!」

「あぁ…『アイツ』ね、」



そう言われて、やっとその一人を頭に思い浮かべて
そういや夏休み入ってからまだ1度も連絡とってねぇな、なんて思う。



「…来ねぇだろ。別になーんも言ってねーし」



学校であんだけ盛り上がってりゃ、わざわざ俺が言わなくたって 試合がある事くらいは知ってるだろうけど…
アイツ、野球 興味ねーからな。
ま、別に来たところで試合の結果が変わるわけでもねーし、どっちでもいいんだけど。
なんて考える俺に、倉持はつまらなさそうな声を出す。



「ふーん」

「何だよ…」

「お前ら、最初の頃はどこが付き合ってんだって感じだったけどよ、最近そうでもねぇだろ。彼女の応援でもありゃ、ランナー居なくたって お前もちったあ打つかと思ってよ!」

「うるせー。お前が塁に出てりゃ打ってやるよ」

「居なくても打てっつーの!つーか、お前に回る頃には俺 塁に居ねぇから!」



ヒャハハ!といつもの様に笑う倉持に、やっぱコイツよく見てんな〜…なんて思いながらベンチに入り、試合に臨む。



マジかよ…と思う場面は試合前からありつつも、8-5で薬師を降してうちが準決勝に駒を進めた。

この試合で丹波さんの球にあれだけ力があるのを確認出来たのはよかった。
あとはアイツらだなー、なんて考えつつ荷物を置きに自室へ戻れば 携帯の光が視界に入って
着替えに手を伸ばしながら、なんとなく確認する。





『お疲れさま。次も頑張って』





改めて差出人を確認すれば、より素っ気なさが滲み出てくるその文面に
思わず笑いながら通話ボタンを押して耳に当てる。



「もしもし、俺だけど」

『何?』

「来てたなら声かけりゃいいのに」

『別に。私が来てるかどうかなんて、何の関係もないでしょう?』

「はっはっは!ま、そうだけど」



初めてかけた電話だってのに、『何?』なんてメール以上に素っ気ないうえに
その返しが 自分と同じ発想で、つい声を出して笑ってしまう。

そういうとこは合うんだな、俺たち。



「試合見に来たのなんて初めてじゃね?」

『たまにはいいかと思って』

「で、見た感想は?」

『結構、面白かった。御幸がランナー居ないと打てないところとか。それでやじ飛ばされてるところとか』

「……」



いやいや、そこは普通かっこよく決めたプレーとかをあげるもんじゃねーの?
そりゃ今日は最後しか打ててねーし、嘘つくとも思えねーから、真剣にそこが面白かったんだろーけどズレすぎな!



「…いやいや、もっと他に見るとこあっただろ。なんでそこ」

『見てたけど。御幸は器用そうだから、失敗しているのが意外で』

「それが面白いって?んなとこばっか見せてたら、俺 試合で活躍できねーじゃん」

『別に。偶然見れたから面白いと思っただけで、望んでるわけじゃないから。ランナー居なくても打てるように打撃練習頑張って』

「…ふっははは!お前最高!面白すぎ!」

『…?』



そんな的確な応援されたの初めてだわ。こりゃ哲さん並の天然ボケだな!なんて思いながら笑っていれば、何笑ってんだミーティングだぞー!と外から誰かの声がする。



「あ、俺ミーティングあるから。後でお前の指示通りバットでも振っとくわ(笑)」

『頑張って』



こっちがおどけてみたって、またね、も じゃあ、も何もなく
プツンと途切れる通話にクールだねぇ…と携帯を机の上に置いて部屋を出る。
まぁでも、俺にはこれくらいが丁度いいのかもな。

野球に集中できて、と足どりも軽く寮の階段を降りる。
















これなら、いっそ このままってのもありかもな。







→08.二ヶ月半





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