American lemonade-D-

□Laila
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タタン、タタンとエンジンによって揺れるバイクに跨ったまま

真っ直ぐ 前を見据える。



「白秋戦のビデオ…?」

「礼は言うなよ、セナ。決勝で泥門と西部、一緒に闘うって約束 守れなかったせめてもの償いだ」





あの白秋との試合の後、目が覚めたのは病院だった。

俺の怪我は、避けかけてた分 キッドさん達程たいしたことはなくて
それでも『暫く安静に』と言われてしまえば、

こうしてセナ達にデータを渡すことくらいしか思いつかなかった。



「っしゃ、任せとけ陸!鉄馬先輩やキッド先輩の骨折りやがった復讐戦だ!汚ねーMAXの峨王、絶対ブッ倒してやる!!」

「お、おー!」



けどそれは、そんなことを望んでじゃない。



「…何か、勘違いしてねえか?アメフトってのはな、球技じゃない。格闘技なんだ。敵の投手を潰しに行くなんて当然の戦略だ。峨王はやるべきことをやった」



俺たちが負けたのは、ただ力が足りなかったから。
それ以上でもそれ以下でもない。



「悪いのはキッドさんを守れなかった俺たちだ。勝ちたいなら、自分たちの力で守るしかない。 戦場のルールは一つだけなんだ」



次、白秋との決勝戦を控えたセナ達に


キッドさんのことも

セナとの約束も
このりとの約束も

結局、何一つ守れてない俺が言えるのは


『頑張れ』でも『気をつけろよ』でもない。
そんな言葉、フィールドに立ってしまえば何の意味もないことを俺は知ってる。

泥門が全員揃って先へ進む道があるとすれば、





「『勝て…!!』」





それしかないんだ。

勝てよ、セナ。



そんな祈りにも似た感情を、自分が口にして初めて気付く。

あの時『勝って』と言ったこのりも
こんな気持ちだったんじゃないかって

今気付いたって仕方ないのか、と思いながら発進しようとすれば
セナが慌てて俺を引き止める。



「待って!!陸!…このりには……」



セナの口から
見ぬかれたように出てきた名前に、思わず目を伏せて



本当は、合わせる顔なんかない。



泣いてなきゃ、いいけど。
無理か、
泣き虫だからな

きっとまた、泣かせたんだろうな

なっさけないな、俺。



本当は目が覚めてから、何度もそんなことを考えてた。



「……元気にしてるか?」

「元気どころか…あの試合の時だってメチャクチャ泣いてたぜ、このりのやつ!」

「うん…すごく、心配してるよ。平気だって言うけど、しょっちゅう上の空だし…でも、陸から連絡があるまで会わないって言ってきかなくて」

「…そうか」





『怪我、大丈夫ですか?
治ったら、会いに行きたいです』





試合の後送られてきてたそのメールには、まだ返事を出せてない。



「…ま、見ての通り、まだ治ってないからな。今会っても心配させるだろ」



テープが貼られている頬を、メットのシールドの上からコツコツと軽く叩けば
「うん…そうだね、」と俯きながら零すセナに苦笑する。



『合わせる顔がない』なんて考えながら

これ以上かっこ悪いとこは見せられないなんて強がりながら



それでもやっぱり、会いたい とも思う。

目を細めて、俺に、微笑んでくれたら ってそう思う。



だからいつも無意識に、約束じみた言葉を一方的に口にして
待たせてばかりで



「これくらいすぐ治すって」





こんなわがままな俺を、このりはいつまで待っててくれるんだろうな。





「…だから、それまでこのりのこと頼んだぞ。セナ」

「…うん」



6年前と同じ言葉で、

もう少しだけ、



セナに任せて



改めてグリップを握りなおせばグオンンとエンジンが鳴る。



「じゃ、」





『またな』





あえて続けなかった







言葉は



今はこのりへだけの約束のことば




Laila-ライラ-
【今、君を想う】







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