American lemonade-D-

□Kirsch & Cassis
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どうか それだけは、って






そう、思っていたのに

あと少しのところで、峨王くんの手が かわしきれなかったりっくんに





触れてしまった。





「陸ーーーーーー!!!」



セナが、りっくんの名前を叫んで

視界の端で、弾き飛ばされて外れたヘルメットが 地面を転がっていく。

そんな光景に私は まばたきも、できなくて。



「…まだだ。まだ1分50秒も残ってる…」



それでも、ボールを離さずにゆらりと立ち上がったりっくんの目は、まだ、諦めていなくて
『もうやめて』と言いそうになる口元を、震える両手で塞いだ。



「…改めて お前の名を聞いておこう」

「甲斐谷 陸。最強 西部ワイルドガンマンズのランニングバック だ…、」



そう言ってフィールドに倒れてしまったりっくんの姿に
口元を覆った手が、視界の端で歪み始める。





どうして、



そんなに強くいられるの、





私は、ぜんぜん だめだよ、





心の中で何度りっくんの名前を唱えても
返事なんてあるわけなくて

あの時、『勝って』って言ったことを、
後悔しそうになる自分の弱さに、目をぎゅっと瞑れば ぼろぼろと涙が落ちる。

言わなきゃよかった、なんて絶対思いたくなくて
りっくんなら大丈夫だって、信じていたくて

りっくんみたいに強くいたいって



そう 思うのに、



「このっち…、リクリクが、」





目から溢れてくる涙以外、なんにも出てこなくって。





「行かなきゃ!ねぇ!」

「……」



そんな鈴音ちゃんの言葉を聞いて
私の中に浮かんできたりっくんの表情に、ぎゅっと手を握りしめる。



「…行けない…」

「なんで…!?だってリクリクが…!妖ー兄になら、私が…!」
「違うの……!」

「なんで…っ?」

「……」





私は、りっくんが優しく微笑んでくれるのしか知らなくって
辛そうなとこなんて見たことなくって

いつだって

強くて、
優しくて、
格好よくて、

プライドが高い人だから、



きっと、倒れた姿なんて見せたがらないだろうなって思うし





「…りっくんが、嫌がると思うから、」

「そんなの…!」





そんなりっくんが、私は 好きだから。





りっくんは、そうじゃないかもしれないけど
私にはずっと、誰よりも特別で大切だったから

本当は今すぐにでも走って行きたいけど
今の私は、弱いところ見せてもらえるほど


強くもないし
特別でもなくて



それでも、


もし叶うなら








やっぱり、傍に居たい。








今更遅いかもしれないけど
結局何もできないかもしれないけど


でも、


頑張ってみても、いいですか?



この涙が止まったら

ただ泣いて、
願って、待つだけの私じゃなくて

傍で、応援できるような、支えられるような、





りっくんの、












なれるような、そんな私になれるように。



Kirsch & Cassis-キルシュ・カシス-
【愛の芽生え】








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