American lemonade-D-

□Brandy Blazer
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「まぁ、良くやったよ…」



キッドさんの帽子が、そこまでだと制止をかけるように俺の頭に乗せられて
その場は結局 何事もなく収まったけど
予想外に冷静だった峨王に対して、ああいうのが一番厄介だと呟くキッドさんに
俺もつい 対抗策をあれこれと思案する。



「ま、その前にうちも1回戦だけどねぇ。…先行ってるよ、」

「?俺も…」



控室へ向かうキッドさんの後をついて行こうとする俺に
キッドさんはスタンドの方へひとつ 目くばせをして。

その先を見た俺は、やっぱり後から追いかけることになりそうだ。



「あんまり遅くなると牛島が騒ぎ出すから、まぁ、遅くならないようにね」

「…はい、」



キッドさんへの感謝の言葉は後にして
その視線の先へ駆け寄り 壊された手すりの間から手を伸ばす。



「このり、怪我してないか?こんなとこ座りこんでたら危ないぞ。…セナのとこ戻れよ」

「りっくん……、」

「服だって折角可愛いの着てるのに汚れるだろ?」

「だ、って…」

「目擦るなって。…もう大丈夫だからな」



また流れそうになっている涙を誤魔化すように手で拭うのを見て ハンカチを差し出しても、
受け取らないまま 違うんだと言うように頭を左右に振るこのりを不思議に思う。



「…だって、りっくんが 変な、嘘 つくし…!」

「……」

「試合前なのに、怪我とか、したら どうしようって…私っ何も、できないし、りっくんが…っ」

「…このり、」



「っ……何も、なくて、よかった…」





そんなことを震えた声で言うこのりに 思わず 狡いな、なんて思う。
改めて流れるその涙は、怖かったからじゃなくて



そうか…俺へ か。



それを隠すように両手で顔を覆われたら、
今の俺には触れられない この距離がもどかしい。
このりの居るスタンドと 俺の立つフィールドにこの段差がなきゃ、手すりくらい乗り越えて 今すぐ抱き締めてやれるのに。

そうは思っても、今 俺にできることは限られてる。





「……もう嘘はつかない。絶対に」

「、…?」

「アメフトを続ける以上、怪我しないなんて約束はできないからな。…それで許してくれるか?」



俺の言葉を聞いて顔を上げたこのりに、改めてハンカチを差し出して



許して欲しいと願うのは、俺が傍に居てやりたいから。

その涙が俺に向いてるなら、俺が拭ってやりたいと思うから。



これを受け取って欲しいのは、俺のわがままみたいなもんだ。



「…私…怒ってる、わけじゃ…」





「それでも、このりを泣かせたことに変わりないからな」





手の届かない距離に居たとしても
せめて、気持ちくらいは傍に置いて行きたくて



手を伸ばす。



「…でも…」

「また今度、返してくれればいいだろ」

「…うん」



俺が笑って見せれば、少しだけ、微笑みながらハンカチを受け取るこのりに

これ以上してやれることは何もないだろうし、
傍に居てやりたい気持ちで、ずっとここに留まってしまいそうになるから
『また今度』なんて口実で誤魔化して 背を向ける。



「…りっくん!」



そんな俺の気も知らずに呼び止める その声を聞けば
やっぱり 振り向かないわけにもいかなくて、後ろを見た。

そんな俺へかけられる言葉は

ためらいがちに、
けど強く


響いて







「…勝って、」







不思議と、心を熱くする。



何を思って、このりがそう言ったかは分からない。
けどその言葉が

俺には、



これ以上ない言葉に聞こえて





「俺は 誰にも負けない」




気付けば、そう口にしてた。

勝手に笑みが深くなる表情を隠すようにまた背を向けて歩き出す
その足取りには

後を引く気持ちも
誤魔化しも



もう何もない。



あるのは






つ』



ただ、それだけだ。



Brandy Blazer-ブランデー・ブレイザー-
【心に火がついた】







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