American lemonade-D-

□Vodka Iceberg
1ページ/1ページ




昔の私は、りっくんの隣を、 どんな風に歩いていたのかな。








『最強のランナー『アイシールド21』宣言することにしたんでしょ?表彰式とかに向けて、それらしくしとかなきゃ!』

『いや、僕は別に…』
『おっそれもそうだな!このりも行くだろ?』



鈴音ちゃんの勢いに振り回され気味のセナを微笑ましく思いつつ、メールを確認していれば モン太くんが声をかけてくれる。
いつもなら迷わず頷くところだけど、届いたメールの内容が内容だけに今日は頷けそうにない。



『えーっと…今日はあの…用事ができて、』
『も、し、か、し、て!!デート〜〜!?やーー!誰と誰と!?やっぱりリクリク!?』

『……えぇ!?いや、違っ、あ、そ、そうなんだけどっ!違うの…!』
『やっぱり〜〜!二人なんかいい感じっぽいなって思ってたんだ〜!付き合ってたんなら教えてよー!なんで隠すの!?照れる必要ないぞこのこの〜!』

『いやいやいや、隠すとかじゃなくって…!付き合ってるとかでもなくって…!会うのは今決まったっていうか、ちょっと話すだけっていうか…!』

『邪魔しちゃだめだよ、鈴音…』
『じゃあ今日は俺ら3人だな』

『あの、全然ほんとそういうのじゃなくって…!ほんとのほんとにそういうのじゃなくって…!!』
『明日詳しく聞かせてね〜!』

『いや…あの…っ!待って……!』





一番にりっくんの名前が出てきたことに驚いて反応が遅れているうちに、なんだか…明日が怖いことになってしまった…と
さっきの学校での鈴音ちゃんとのやり取りを思い出して、歩きながら思わず震える。

鈴音ちゃんが変なこと言うから、一緒に歩いてるだけなのに緊張するし…
ちょっとお話して、ハンカチを返して…
そ、そう!ハンカチを今度こそちゃんと返して、メールなかなか送れなかったのもちゃんと謝って、それから…と自分を落ち着かせようと必死にあれこれ考える。





「このりは、セナ達と一緒に行かなくてよかったのか?……このり?」

「え!?あっ うん、大丈夫!全然、うん、大丈夫…です」

「…ならいいけど」

「…りっくんこそ、大丈夫…?練習 とか…」

「昨日の今日だからな、うちも休みだよ。昨日も結局 遅くまでビデオと顔突き合わせてたからな、今日は息抜きに出掛けようと思ってたんだ。ありがとな、付き合ってくれて」

「いやっ…私は全然、何も…あっハンカチを、返そうと思ってそれで…!なので、誘ってもらえて良かったというか…嬉しかったというか…っ」

「……」

「えっと…その、今日は、ありがとう…ございます…」



そんな風にぎごちなく出てきた音に自分のことながら絶望すら感じる。
どうしようなんだかすごくダメな感じする…!
何がって言われても全然分からないけどなんか全体的にダメな感じがする…っ
自分が話すの下手なのは分かってたけど、でも、…いや、お、落ち着こう、まず落ち着いて、考えてから、話す…考えてから…



「…昨日も思ったけど、なんでメールでも敬語なんだ?」

「……」

「?」

「……き、緊張してっ」



考え始める間もなく投げ掛けられた質問に、それも上手く考えることができないまま
答えるのを待ってくれてるりっくんに返事をする。
って…いや、私、いや、緊張はしてるけど…そのまま言ったらダメなんじゃ…。りっくん驚いて無言になってるし…!も、もしかして呆れられてるんじゃ…!



「ご、ごめんなさい!メールも、何度も送ろうと思ったんだけど…なんて送ればいいのか分からなくって、折角教えてくれたのに昨日になっちゃって…それに、体育祭の日も…あの、」



どうしよう、どうしよう、と焦る気持ちが
言葉を上手く繋いでくれない。

さっき 話そうと思っていたことはなんだったっけ、
こんな言い方じゃ ちゃんと伝わらないんじゃ…、
どうして私はまもりお姉ちゃんみたいにうまくできないんだろう、

そんなことばっかり浮かんで、俯いた先の道が霞みそうになるのを
だめだ、泣くのだけは絶対だめだ…ってなんとかこらえる。





「…ゆっくりでいいって」



「…?」

「全部聞くから。今日全部聞けなくても、次また ちゃんと聞くから」

「……」

「…制服そんな握ったらシワになるぞ?」



そう言って、無意識に制服にすがっていた手をほどいてくれるりっくんの手と



「手、つっめたいな、」



仕方ないなぁ、って風に微笑むその表情が
とても暖かくて。

そういえば昔も、こんな風に笑ってくれるところ好きだったなぁ…なんてふわりと思い出す。



「とりあえず、なんか暖かいものでも飲みにどこか入って、その後は…そうだな、買い物 付き合ってくれるか?探してる物があってさ」

「……うん」

「よし、行くか」



そのまま手を引いて歩き出すりっくんにつられて足を進める。

そこで初めて、私は少し怖かったのかも。と気づいた。
ハンカチを返してしまったら

話すきっかけがなくなってしまう気がしていたから。



でも、





『今日全部聞けなくても、次また ちゃんと聞くから』





その言葉が、きっとまた約束になる。

だから








くり



次を、待ってもいいんだよね。



Vodka Iceberg-ウォッカ・アイスバーグ-
【ただあなたを信じて】







←geh zuruck





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ