Gerade-D-

□この日まで
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「とーじ先輩、」

「ん?どうした、三笠」



色んなことが いっぱいあった。
この、約2年半。



「迅がねスタートの時ね、『グリーンゼッケン土産にゴールしてやるからな』って言ってた!」

「お、勝つ気満々じゃん…しっかり見といてやんねーとな」

「うん!」



ずっとずっと、見てきた。
一番そばにいた。


だから余計に、出てこなかった。



「でもさっき、頑張ってって言えなかった…」

「…お前らにはそんなもん今更だろ。田所ならお前の言いたかったことくらいちゃんと分かってるって」

「うん、」

「信じてんだろ?ちゃんと」

「うん!」

「なら、なんも心配することねーよ」



「見えた!!見えましたよ、寒咲さん!!」



純ちゃんの声に、心臓が大きく鳴って

ずっと、迅が見据えてきた目標のひとつが、すぐ、そこまできてる。
そう思ったら、息をするのも忘れそうになる。



「トップスプリンターの先頭は三人…ハコガク5番と、田所さんと鳴子だ!!」



とーじ先輩の運転する車から、必死に回すふたりの後ろ姿が見えて
思わず窓から身を乗り出した。



「残り250!並んでるぞオイッ!」

「章ちゃん…」



いつもぎゅーってしてもちゃんと支えてくれる章ちゃんの背中が、いつもより大きくみえる。
全力で回して、ボロボロで、一番に向かって走ってる。

その背中は、知ってる。
ずっと前から見てきた 背中と同じ。
一緒だ、章ちゃんも、迅と、

おっきさは全然違ってもきっと迅と同じで
大変なこといっぱいあって、いっぱい、頑張ってきたんだろうなってなんでか思う。





「迅、」



って自然と出てきたその音は風にかきけされていって 少し、怖くなった。
あと、ほんの少しで、この勝負が決まるから。



「並んでる!まだ並んでる!!」



ほんの一瞬、のはずなのにいっぱい思い出す、

いっぱい負けて、負けて、負けて、
でも私には絶対、辛いなんて迅は言わなくて。
それが寂しくても いつも通りにしかできなくて

迅が部活辞めるって言った時も何も言えなくて
私も自転車やってたら もっと何かできたのかな、何か言ってあげられるのかなっていっぱい考えた。
でも、とーじ先輩が『勝ちてーなら辞めんな』って
迅の練習をめいっぱい見て、声をかけてくれて…いっぱい練習してたの、ずっと見てたよ。



「ポイントライン見えた!!残り80!!」



そうやって負けながらいっぱい練習して、迅が初めて勝ったときの事、すごく嬉しくて今でも大事に覚えてる。

私、何もできなかったけど、
ずっと、応援してたよ。


今も、応援してるよ。





総北が 優勝するって、信じてるよ。





「!横風で…コーンが…!」







だから、負けないで。







「迅ーーっ!章ちゃんっ!勝ってーーっ!!」



聞こえないのは分かってるけど、めいっぱい叫んで、

目を開けたら、



そこには、指で1を作って右手を空にかざす迅が





映って







泣きそうになった。




「とーじ先輩…、」

「おう、見たよ」

「迅が、一番とった…!」

「うわっ!おいおい、オレ今運転中だぞ!ったく、……やったな」

「うん…!とーじ先輩、ありがと…ございました…!」



涙が出そうになるのを、とーじ先輩をぎゅーってして堪えてたら、
見守ってきたかい、あったんじゃねーか?って、

頭を撫でてくれるとーじ先輩の手で、思い出す。


1年の時、先輩が同じようにして くれた言葉を。





『アイツは大丈夫だよ。根性あっから。指導するのは先輩であるオレの役目だ。…ただ、誰かが傍に居るってことが、力になることもあんだ。だから、お前も諦めずに信じてやれ』





諦めなかったよ、とーじ先輩。



信じて、そばに、居たよ、ずっと。










日まで



迅なら勝てるって、ずっと、信じて 見てたよ、その背中。










→10.諦めへん


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