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□明々白々たる敗北
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「なんだなまえ、暇そうだな」



対戦ブースで いいデータになりそうな試合はないかと大画面を見つめていれば
後ろからなんとも失礼な言葉をかけられて
その分かりきった声の主に、振り返りもせず同じ言葉を返した。



「太刀川さんの方が暇そうですけど。ちゃんと大学行ってるんですか」

「そんなことよりランク戦しようぜ」

「そんなことより大学行ってください」

「大学は行ってるだろ。レポートはやってないけどな!なまえはまたデータ収集か?」

「…まぁ、そうですね」

「お前はしっかりしてるなー。ずっとそんなだと疲れるだろ、息抜きに10本勝…」

「太刀川さんみたいにはなりたくないんで大丈夫です」



そんな私の言葉に太刀川さんが「ひどいな」なんて溢すから、何を今更…と思う。
A級1位の太刀川さんだ!とざわつく周りにドヤ顔を返すこの人を
私だって最初は きっと凄い人なんだろうと尊敬の念くらい抱いていたし、話す時も失礼のないように…とか思ってた頃だって確かにあったのだ。



「なあ、それよりランク戦は?」

「……太刀川さんが手加減してくれるならやってもいいですけど」

「するわけないだろ」

「太刀川さんのそういうとこ嫌いじゃないですけど嫌いです」

「それは結局どっちなんだ」

「嫌いじゃないですけど嫌いです」



自分のチームがA級に昇格して、太刀川さんとも接する機会が増えてくると
この人 戦闘以外てんでダメだな…という印象が増すばかりで 気づけばこんな感じになってしまっただけ。



「…まぁいいか。手加減はしないけどランク戦しようぜ」

「嫌だって言ってるじゃないですか」

「この前米屋とはやってただろ。うちの出水とも。だったら俺だっていいだろ」

「嫌です…っていうか何で知ってるんですか…」

「聞いた。なんでアイツらは良くて俺はだめなんだ」

「あの時は試したいことがあったから受けただけで、いつも受けてるわけじゃありません」



そうやって答えるのも、別に冷たくしているわけじゃなく
ただありのままを言っているだけなのに
「本当に頑固だな、おまえは」と言われると 不愉快なのは何故だろう、と思いながら言葉を返す。



「太刀川さんはしつこいです」

「なんだ、だめか?」

「…まあ、そこは個人の自由ですし…好きにすればいいと思いますけど」

「じゃあやろう、ランク戦」

「……。米屋くんや風間さんにお願いしてください」

「今あいつら居ないだろ。さぁ、やろう」

「………」



この誘い、どうやったら断れるんだろうか…と頭を悩ませる。
誰か代わりになるちょうどいい人物が現れない限り無理なんだろうけど、そういうのは期待してる時程 都合よく現れたりしないことは分かってる。

A級にあがったといっても個人的な能力は勿論、太刀川さんとは格が違いすぎるし
格上に試したい戦術も今はなくて たいした収穫もなく一瞬で終わるのがオチだから、やる意味を見出だせないんだけど…と、あれこれ思案していれば
太刀川さんが思いついたように よし!と声をあげた。



「俺が勝ったら飯奢ってやる」

「…そんな勝つ前提でやって何か面白いんですか…。勝てる算段がないから嫌だって言ってるんですけど」

「じゃあ どこでも好きなところ連れてってやるぞ」

「太刀川さんに連れていってもらうような場所はありません」

「…おかしい。渋っててもだいたい皆どっちかで頷くのにな…」

「クズですね。本当に」

「あ、ポイントか?特別になしでもいいぞ」

「そういうことでもありません」

「じゃあどういうことなんだ。俺、今日はお前とランク戦するってさっき決めたんだ」

「どこまで勝手なんですか…」



もう意地に近い形で拒否の言葉を並べていく。
太刀川さんと話しているといつもより割り増しで思考がまとまらない。

まず何を言ってくるのか予想がつかないし、
言ってくることはマイペース発言か意味の分からないものが多いから
ノリで会話するタイプではない私には少し、扱いづらい。



「だいたい私では太刀川さんの相手になっていないと思うんですけど、何がそんなに面白いんですか?」

「おまえは真面目だから、負けると分かっててもランク戦の間は真剣に俺のことだけ考えるだろ?それが面白い。なんなら毎日でもいいぞ俺は」

「……は?」

「ん?何か変か?」

「……いえ、別に…」



本当に、何を言っているんだろうかと思う。
私は別に太刀川さんのことを考えてるとかじゃなく、勝つためにはどうするかを考えてるのであって
それは太刀川さんならこういう場合はこう動きそうだとか、こういう戦い方が好きだろうからとか、あくまでもそういう予測であって
何を思ってそういう言葉が出たのか分からない。本当に分からない。
どういうつもりでこの人は…



「ランク戦、」

「今それどころじゃないんですけど!」

「なんだ急に」

「太刀川さんがよく分からないことを言うので意味を考えてるんです」

「なんだ、俺のこと考えてたのか。ならランク戦は明日でもいいな」

「なんでそうなるんですか!」





「お前の思考が独り占めできるからオッケーってことだ」





意味が分からなさすぎてヤケになって聞いた答えは
更に意味が分からない



「…意味が、分からないです」





というのは嘘。さすがに意味はなんとなく、分かったけど





「なんだ、言ってなかったか?」



理由が、分からなかっただけ。



「好きだってことだ」

「聞いてないですけど」

「いつも言ってたろ、ランク戦しようって」

「日本語でお願いします」

「日本語だろ、今の」



戦闘以外はルーズな太刀川さんらしいとは思うけど
 


「気が変わったならランク戦するか」

「本当に戦闘狂ですね……まぁ、今日だけなら付き合ってあげないこともないですけど」

「よし、今すぐやろう!」



何度も何度も繰り返されていたその言葉は、
好きだと同義語だったのかと思うと

途端にNOという言葉すら、出てこなくなるこの口が憎らしい。








白々たる敗北



対戦の後、ブースから出てきた太刀川さんは「たまには飯でも食いに行くか」と満足そうに笑った。










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