長編

□君のトリコ
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確か、あの時も途中で雨が降ってきた。
その所為で折角の試合が台無しになったのだ。

「不二先輩!あの試合の続き、今度しましょうよ」

今日の天気は午後から生憎の雨。
部活はと言うと、筋トレメニューを室内で行うというものだった。
しかし、流石のレギュラーメンバーも乾が考案したそれを2時間もこなし続けていれば疲れてしまう。
それもあって、今の越前は非常に色っぽい表情になっている――ように他の部員達には見えていた。
頬を僅かに赤らめ目が潤んでいる(ように見える)表情で、意中の相手に誘われた時には、断れる筈がない。

「あぁ‥それは構わないけど…いきなりどうしたんだい?」

不二は目の前の可愛い後輩を押し倒したくなる衝動に、両手をグッと握り締めて堪え、優しい声音で訊く。
そんなやり取りを他の部員達は睨むような視線で静観していた。

「ん?ただ、早く決着をつけたかったんスよ。あのままアンタの勝ち逃げとか、ムカつくんで」
「あはは…。確かにそうだよね」

不二の小さな溜め息と部員達からの突き刺さるような視線がなくなるのはほぼ同時だった。
不二の溜め息に越前は不思議そうな表情をしたが、直ぐ様己の喉を潤しに水道へと向かって行ってしまった。
色々な意味で不二は肩を落とす。
これは余談だが、青学のテニス部で越前を狙っている者は多い――と言うより、狙っていない者がいない、と言っても過言ではないだろう。
本人はそれに気づいているのかいないのか、期待だけさせて最後に軽くあしらうという、なかなかに手強い技(?)を持っていた。
その為、ヤキモキさせられているのは不二ばかりではない。
恐らく、いつもそんな風になっているのは、登下校が一緒の桃城だ。
それはさておき、ぼんやりとしていた不二の背後に、誰かが近付いて来る気配があった。
不二は振り返って背後にいる相手を確認する。
と、その人物は犠牲者1号(これは言い過ぎかもしれないが…)の桃城である。
その桃城の表情は同情のような勝ち誇ったような、何とも表し難いものだった。
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