Long Story
□気付かぬ想い
2ページ/7ページ
「おじさんはね、私が裏の仕事してる事 知ってたの」
宿への帰り道に颯妃が話し出した
「こんな時世だし、颯妃には颯妃の事情がある…って、依頼場所として店の屋上まで貸してくれた
辛い仕事の後は、美味しいご飯作ってくれて、私の愚痴に一晩中付き合ってくれた」
「まるで親父さんみたいじゃん」
悟浄が笑う
「そう‥本当の父親みたいだったんだよね
それに気付かなくて‥‥どうして私、独りだって思ってたんだろ
ちゃんと帰ってくる場所あった――…迎えてくれる人‥いた」
それは温かい涙だった
心が暖かくて、嬉しくて
涙が止まらなかった
「良かったじゃねーか、独りじゃねえって分かって」
皮肉な口調だったが、瞳があまりに穏やかで
笑う顔が優しくて
颯妃は思わず三蔵に抱き着き、声をあげて泣き出した
「三蔵サマ役得じゃん?」
「いやぁ、明日は洗濯ですね……その法衣」
「何かカワイ〜よな、颯妃って」
泣きじゃくる颯妃は年より幼く見え、今までの背伸びをしていた彼女より、ずっと自然で可愛らしく見えた
その後、泣き疲れた颯妃は三蔵の法衣を掴んだまま、すっかり寝入ってしまった
「やれやれ‥今日は三蔵は抱き枕役ですね」
「三蔵サマん、襲うなよ〜」
苦笑する八戒
にやける悟浄
結局、寝ている颯妃を起こすことも出来ず、三蔵は法衣を掴まれたまま一晩を過ごす事になった