Long Story

□気付かぬ想い
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「おじさんはね、私が裏の仕事してる事 知ってたの」



宿への帰り道に颯妃が話し出した



「こんな時世だし、颯妃には颯妃の事情がある…って、依頼場所として店の屋上まで貸してくれた
辛い仕事の後は、美味しいご飯作ってくれて、私の愚痴に一晩中付き合ってくれた」



「まるで親父さんみたいじゃん」



悟浄が笑う



「そう‥本当の父親みたいだったんだよね
それに気付かなくて‥‥どうして私、独りだって思ってたんだろ
ちゃんと帰ってくる場所あった――…迎えてくれる人‥いた」



それは温かい涙だった

心が暖かくて、嬉しくて

涙が止まらなかった





「良かったじゃねーか、独りじゃねえって分かって」



皮肉な口調だったが、瞳があまりに穏やかで

笑う顔が優しくて


颯妃は思わず三蔵に抱き着き、声をあげて泣き出した




「三蔵サマ役得じゃん?」



「いやぁ、明日は洗濯ですね……その法衣」


「何かカワイ〜よな、颯妃って」




泣きじゃくる颯妃は年より幼く見え、今までの背伸びをしていた彼女より、ずっと自然で可愛らしく見えた




その後、泣き疲れた颯妃は三蔵の法衣を掴んだまま、すっかり寝入ってしまった



「やれやれ‥今日は三蔵は抱き枕役ですね」


「三蔵サマん、襲うなよ〜」



苦笑する八戒

にやける悟浄


結局、寝ている颯妃を起こすことも出来ず、三蔵は法衣を掴まれたまま一晩を過ごす事になった



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