最短編

□月が露に
1ページ/2ページ

 月が露にする。
 白い開襟。乱れた髪。覗き見える異様に白い肌。

 切なそうな表情。

 不安で不安で仕様がない顔で手を伸ばされた。
 君が僕に触れるには少しだけ遠い。
 この位置ならば、君に僕の表情は見えないだろう。

「中禅寺…」

 縋る様な掠れた声。
 この声も好きだが、まだ足りない。
 手を伸ばせば届くけれども、僕は故意に動かず君の不安を煽る。

 君が僕の求めるモノを曝すまで、僕は君に与えることはしない。

「中禅寺」

 今度は確りと発音する。 焦りと、不安が入り乱れた、僕を切望する声だ。

 やっと僕は少し彼に与える気になる。

「呼ぶだけじゃ駄目だ」

 もっと求めろ。
 欲しいモノを言葉にするんだ。

「関口君」

 彼は困った様な、諦めている様な顔をした。
 この顔は好きではない。
 仕方なく求められたくはない。

「…中禅寺、僕の、手を」
 そこで、関口の言葉が止まった。
 驚いた様な、魂をすとんと落とした様な顔と視線が合わさった。
 自分の愉悦に満ちた表情を見られたのだろうか。
そう思ったが、違うらしい。視線が外れて僕の肩あたりを見つめる。
 途端に泣きそうに顔を歪ませた。

「手を、取ってくれ…」

 懇願する声。僕を切望する最上級の顔で僕を仰ぎ見る。淫靡の化身。

 白い開襟。肌。月が照らして光る。なんて暗い輝きだろう。
 やっと手を握ってやると待ち焦がれた様に抱き付いてきた。

 月から隠す様に抱き止めてやる。
 それでも漏れる光が彼の姿を露にする。

 あぁ、見るな。

 誰も、彼を見てはいけない。それが赦されるのは僕だけなのだから。

「…君を、見たい」

 強請る様な声で擦り寄る関口に、知らず笑いが漏れた。
 快感を含んだ、嘲笑に似た笑いだった。

「駄目だよ。見せてなんかやらない」

 云い放ってやると、彼は酷く哀しそうな顔をした。 煽られている気になってしまい、頬を撫でた。

「でも、先に君が総て隠さずに見せると云うのなら、考えないでもないかな」

 暫く彼は黙っていたが、静かに頷いた。

 闇の中へ押し倒す。
 月が照らし露にする。
 白い開襟。白い腕。まるで発光しているかの様。

 この白さを感じて良いのは僕だけだ。
 高みで見物するといい。
 月に露にされた君を、見せ付けて独占する。

 なんて歪んだ悦楽歓喜。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ