仕事終わりにベランダで夜空の星を数えながら晩酌

ひとり、静かな夜
仕事のことなんか忘れて、私だけの自由な時間

でも最近、時々現れるようになった
空に浮かぶドーナツ

お隣りさんが越してきて、ベランダでタバコ
その香り、そしてドーナツもいつの間にか私の日常だった


「"月、綺麗だなー"」

なんて思ってると、隣から


「今夜は月が綺麗ですね。」

と、一言
私に言ってるのかとも思ったけど、隣りは私の存在に気づいてないだろう
出会っても、お互い会釈をする程度
会話をしたことなんて…………あったかな?
でも、少し低めのよく通る綺麗な声

そんなことを考えていたら不穏な一言


「はぁ…………抱きてぇ」


って、えぇっっ!!!
ビックリして、物音を立ててしまった
ヤバい!!って思ったけど、見上げたらお隣さんと目があった

いつもはコンタクトなのか、黒縁の眼鏡を掛けている
そして、いつも括っている髪がサラリとなびく
自分の頬が熱くなったのが、分かった

が、お隣さんの一言に更に驚いた


「可愛い」

「ぇっ」

ぁ、いつもスーツなのにこんなパジャマでいるから!!
恥ずかしくて、逃げようと思ったけど


「お姉さん、ちょっとこっちこっち」


呼ばれてベランダに縋った
いつもは分からなかったが、私の方が少し背が低みたい


「タバコ、大丈夫?」


隣りで吸ってもいいか………ってこと?
別に気にしてないので、頷いた

するとお隣さんはタバコを吸った
その姿は、とてもさまになっている

思わず見惚れていると、煙を吹きかけられた


「なっ……けほっ、けほっ」


正直、ビックリした
まさか煙を吹きかけてくるなんて!!!
頭に血が登ったのが分かった

分かったけど、さっき言ってたお隣さんの言葉
そして、煙を吹きかけてきた意味

それを察して、頬が更に熱を帯びる


「"ぇ、コレって………そういう、こと!?"」


お隣りさんを見ると、悪戯っぽい顔がそこにあった



「…………可愛い」


「っ、また……」


恥ずかしくて、逃げようとしたら手を掴まれた
持っていたお酒の缶を落としてしまい、飲みかけのお酒が弧を描いた


「ねぇお姉さん。今から、そっち行ってもいいですか?」


甘えるように、上目遣いで問いかけられた
しかし、その瞳の奥の熱い獣に気づき

腹の奥がゾワッとした




こんな恋の始まり方も、いいかもしれない



END


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