第三楽章〜グラサンの王と幻想の騎士〜

□蒼き星が泣き 緋き月が嗤った
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地の底、冥王の玉座──


玉座の主タナトスの手に、無惨に破壊された竪琴がある。
その竪琴の持ち主たる青年の友人エレフセウスは、気遣わし気な眼差しで冥府の王に問うた。

「直りそう? タナトス」

「案ずるには及ばぬ。暫しの時間は要するが、何とかなるであろう」

タナトスが頷く。

「あれもなかなかに厄介な『糸』に絡めとられたものだ。
新たな生を得、女性に恋焦がれるその度に、災難を招く」

タナトスの言葉を聴き、エレフセウスは僅かに瞳を伏せた。

「『教団』にとっては、やっぱり邪魔なんだろうね。ジュリエッタがヒトならざるモノと知りながらも心から惹かれた男──
『破滅の洪水』をもたらす嘆きの歌姫を鎮めるかもしれない存在は」

「そればかりでは無い。
死は恐怖するものに非ず、唯次なる生に至るまでの休息、いずれ朝を迎える夜。生命は元来永久にして、朝と夜を繰り返す如く輪廻するもの……等と教え広められる事も不都合な筈」

「──ヒトが畏れ忌み嫌う『死(Thanatos)』の真実を、冥王の巫女のチカラを喪ったラフレンティアに代わり、詩を介して説き広める──彼なりに考えた贖罪が、皮肉にも『教団』に狙われ続ける運命を導いてしまった……」

「《運命(Moira)》に抗うは、別な『運命(いと)』に絡め取られると同義。
お前に共鳴し、敢えて其れを選び取ったのだ、とうに覚悟は出来ていよう」

タナトスの諭す言葉に、エレフセウスは頷いた。
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