この蒼い空の下で 参

□伝えたくて
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お礼の気持ちを込めたものだから、ありがとうって気持ちが伝わるものがいい。もちろん言葉にもするけれど、行動でも、伝えたい。

伝えられる行動って、なんだろう。なにか、こう、特別な感じのことがいい。誰とでも出来るようなことじゃそんなには喜んでもらえないと思うし。

感謝を伝えられる、特別な行動。

「特別……」

いつも貰ってばかりで口でありがとうと伝えることしかしてこなかった。それに、お金が全てじゃないけれど、着物とか帯とか、高価な物ばかり貰っているから、少しでもそれに見合うことをしたい。

どんどん自分でハードルを上げてしまったせいでますます何も浮かばない。やっぱり何とかしてお金を工面して物を贈る? でも、着物や帯に見合う物を買えるだけのお金なんて、簡単にどうこう出来るとは思えない。そもそもお金を工面出来る気すらしない。

やっぱり、行動で伝えるしかない。

頑張って考えよう! とグッと拳を握った途端、お腹がぐぅぅ、と鳴った。そういえばもう夕飯の時間だ。まずはご飯を食べよう。お腹が膨れれば何か浮かぶかもしれない。

事前に今夜は政宗の部屋で食べると伝えられていたからそちらへと向かうと既にお膳は運ばれていて、侍女さんの手によって並べられているところだった。

「遅かったな」

「ち、ちょっと小十郎さんと話してたの」

嘘は言ってない、嘘は。心の中で言い訳をしながら政宗の向かいの席に座る。側に置かれたおひつの蓋を開け、まずは以外にたくさん食べる政宗用に大盛りに装って政宗に渡し、次に自分用に並盛で装う。

おひつの蓋を閉めて侍女さんに渡せば頭を下げておひつを持って下がり、政宗と二人きりになる。

これが朝と昼なら以外に政宗がおかわり出来るようにおひつは残してもらうけど、夜はお風呂の後にお酒を飲むことが多いからかおかわりをしないから、必要な分を装ったら下げてもらっている。

いただきますと手を合わせ、美味しそうな匂いで誘ってくる料理に舌鼓を打ちつつ他愛のない話で笑う。ご飯の量は政宗の方が多いけど、主に私の方が話すからか食べ終わるのは政宗の方が早い。

先に食べ終わった政宗が食後のお茶を飲み始めると一旦会話を中断し、食べることに専念する。私も食べ終わってお茶を飲み始めて少しすると侍女さんがお膳を下げに来てくれて、さらに少しするとお風呂の用意が出来たと知らせてくれる。

「先に入ってくる」

「うん。行ってらっしゃい」

湯飲みから口を離し、腰を浮かせた政宗を見送ろうとしたら顔に影が差し、あっ、と思った時にはキスされていた。

「茶の味がする」

「っ、さっさとお風呂行け!」

真っ赤になってしまっているだろう顔で睨み付ければ、政宗は楽しげにくつくつと笑いながら湯殿へと行った。

政宗は想いを通わせあって関係が変わってから、隙あらばキスしてくるようになった。さっきみたいに触れるだけの時もあれば足腰立たなくなるどころか眼を回してしまうほどに濃厚なのをしてくることもある。

でも、嫌じゃ、ない。だって、キスされる度に、政宗の婚約者という役をしていた時はどう表現すればいいか分からなかった政宗との関係が、はっきりとした、それも嬉しさと幸せいっぱいの特別な関係になれたんだって、感じることが出来るから。

「あ、あった」

特別な、行動。


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