この蒼い空の下で 参

□アブナイ人
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「ん、や……や、だぁ……」


吐息混じりの声に艶を感じ、思わずごくりと喉を鳴らす。


もっと鳴かせてみたい。


ぞくぞくとした感覚とともに沸き起こった衝動に突き動かされるままに足を上へと滑らせた。


「やっ! だめっ!」


両手で足を掴んできた美夜が爪を立てた。そんな反撃も今の俺には可愛らしいものとしか捉えられず、反撃に対する『仕置き』のように足に僅かに力を入れた。


「んんっ……あ、だめっ、だめっ!」


爪先が控え目な膨らみを感じ取った。美夜の手にも力が籠りさらに強く爪が食い込んでくる。さすがに痛みも強くなるが、足を上へとやったために普段は衣服に隠され陽に当たることが無いおかげで手足よりも尚白い肌が、さっきまで足裏で悪戯していた腹部がチラリと見えてしまっていた。
その白の誘惑は爪による痛みを気にならなくさせるには十分な威力を持っていて――。


このまま爪先で『可愛がって』やろうか。そして存分に可愛がって鳴かせた後は柔く白い肌に映える紅い華をたくさん咲かせるのも良い。


そんなことを思った直後だった。


「政宗様! 何をなさっておられるのですか!」


驚愕と叱責とか混ざった馴染みの有りすぎる声に一瞬にしてハッと我に返った。目の前では俺の足を強く掴みながら今にも泣きそうな眼で睨む美夜の姿。そして俺の足は美夜の衣服の内側にあり、しかも爪先が膨らみに触れているほど際どい位置にある。


愛した女が泣きそうになるほどその体を足で悪戯していた。


我を取り戻した今ならその行為がいかに倒錯したもので、アブナイ奴の姿にしか見えないことは分かってしまう。小十郎の様子にも納得する。もし俺が小十郎の立場だったら俺だって同じ反応をするだろう。(俺以外の野郎が美夜に同じことをしていた場合はもちろん別の反応をする。)


「Ahー……。悪かった、美夜。ちっとばかり調子に乗りすぎた」

「…………」


当然の反応として、美夜はぷいっとそっぽを向いた。


「反省してる。もう二度としねえ」


怖がらせないようにそっと、そして優しく手を取って言えば、ややして美夜は横目ながらま俺の方を見た。普段通りの(もちろん美夜をからかって遊んでいる時では無い)笑みを意識して浮かべれば美夜の頬がほんのりと朱に染まった。


「……ほんとに、もう二度としない?」

「ああ、しない」


誠実に聞こえるようにと願いながら言えばそろそろとではあったがようやく俺の手を取ってくれた。その手はひんやりと冷たく、抱き上げた体も冷たくなってしまっていた。幸い手拭いも着替えも予め楓が用意していっていたため美夜を室内へ下ろすと着替えの間はと廊下へ出て戸を閉めた。

濡れた衣服を脱ぐ音を聞こえてくる。小十郎へと視線を向けるとジッと見てきた後に一礼して去っていった。どうやら説教は免れたらしい。ホッと安堵の息が出る。


「政宗、ほんとにもう二度としないでよ?」

「しねえよ。そう誓っただろ。まだ信じられねえか?」

「そうじゃないけど……。だって、あれ、ぞわぞわして変な感じしたから何か嫌なんだもん」


それはもしかして『感じてた』ってことじゃねえのか? とは思ったが、馬鹿正直に口に出せばどうなるかは分かっていたから当然思うに止め、もう二度としないから安心しろと返した。

着替えを終えて出てきた美夜はしばらくは警戒していたようだが陽が暮れる頃には普段通りの態度に戻っていた。

だが、自分の中にあんな倒錯した行為に興奮してしまう部分があったことや欲望に負けそうになったこと、その挙げ句に美夜を泣かせそうになったことへと精神的痛手は中々癒えてはくれなかった。

自業自得、と分かってはいたが……。



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