この蒼い空の下で 参
□タイトル未定
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湯たんぽの温かさに、うとうとし始めた頃だった。微かな話し声を耳が拾った。ぼんやりと開けた眼に映ったのは障子戸に浮かぶ二人分の人影。政宗と、小十郎さん、だろうか。でも、朝出掛ける時、政宗は今日中に帰るのは難しいと言っていた。
夢? それとも、別の誰か?
もし、本当に政宗なら――。
もそもそと布団から出ると、寝惚けているせいかふらつきながらも部屋を横切り障子戸を開けた。
「っ、美夜!?」
驚きの声をあげたのは政宗だった。その姿を認めた瞬間には政宗の体に腕を回し抱き付いていた。
「おかえりなさい」
まだ寝惚けているせいか、舌足らずな言い方になってしまいながらも顔を埋めた政宗の胸元は、着ているものはひんやりと冷たかった。さっきまで湯たんぽで温められていた素足が感じるのはそれ以上の冷たさ。
その冷たさが、半分以上寝ていた私の頭を覚醒させた。
「っ!」
慌てて政宗から離れるも、自分のしたことに頬が熱くなるのを抑えられない。
「政宗様、それでは私はこれで」
「あ、ああ。無理をさせて悪かったな」
「いえ。恐らくそうなされるだろうと思っておりましたので」
小十郎さんの言葉になぜか政宗は決まり悪げに他所を向く。会話の意味を掴めず首を傾げる私に気付いた政宗が、着ていた外套を脱いで私の肩に掛けてくれたかとおもうとそのまま腰に腕を回され抱き寄せられた。
後から考えればごまかそうとしての行動だったのかもと思ったけれど、この時は隙間風すら入らないほどぴたりとくっついた体にただただドキドキすることしか出来ない。
恥ずかしいから離れたい気持ちもあるけれど、今日は朝政宗を見送る時にキスされたのを最後に触れ合えなかった寂しさが、恥ずかしさ以上に離れがたい気持ちにさせる。
「あ」
少しだけ、と胸元に頬を寄せようとしたら抱き上げられた。そのまま開け放されたままの障子戸から部屋の中へと連れて行かれる。いつの間にか小十郎さんは居ない。
「起こしちまったか?」
既に明かりの落とされた室内を見ながら聞かれ、ううんと首を振る。
「うとうとしてただけ。声がして、政宗かもって思って……」
会いたかったから、とは恥ずかしくて言えなかったけれど政宗には伝わってしまったらしく、チラリと見た政宗は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「無理をして正解だったな」
「無理?」
「俺もお前に触れたかったってことだ」
言い終わると同時にキスされていた。帰ってきたばかりだからか冷たかった政宗の唇はすぐに温かくなって、キスしているせいかと思うと余計にキスしていることを意識してしまいいつも以上に恥ずかしくてなってくる。
途中、布団の上に下ろされる時に離れるもそれはほんの少しの間だけで、昼間一切触れ合えなかった分を補うかのように角度を変えてはたくさんキスされた。
でも、今夜のキスには荒々しさがあまり無く、熱いのにどこか穏やかで、優しくて、ひたすらに心地好かった。合わさる温もりも絡まる熱も心地好くて、とろりと意識が溶け始めるのを止められない。
「美夜?」
「ん……も、と……」
政宗の袖に手を伸ばし、心地好い熱をもっとと望みながらも意識はどんどん溶けていく。
「もっと、な」
閉じた瞼の向こうで政宗がどんな種類の笑みを浮かべていたのか知るよしもなく、望んだ温もりを唇に感じながら睡魔に身を任せた。
『もっと』は翌朝、おはようの言葉よりも先に、睡魔とはかけ離れた理由で思考だけでなく体までとろけてしまうほどたっぷりと、それはもうたっぷりと与えられた。
終